小話4 コビトと乗り物

 身長の小さい人間が乗り物に乗ったときにまず思うこと、「大きさだけなら小人料金」。しかしここで言われる「小人」とは主に「小学生以下の人」を指す。小さい成人女性は黙って「大人1名様分」の料金を払う。小さくたって大人だし。

 乗り物が電車なら、まずは「吊革問題」に見舞われる。吊革の長さによっては届かないことがあるのだ。乗った瞬間、素早く車内を見渡す。掴まれそうな長さの吊革、または手すりが近いところに移動する。例え肘が伸びてちょっと痛くても吊革には掴まりたいし、かと言って届かないなんて屈辱は極力避けたい。その時に今日履いている靴のヒールの高さも重要になってくる。ヒール数㎝分に届くか届かないかの命運がかかっているのだ。しかし、混んでいる車内に乗る場合には最適なポジションが取れないこともある。よろけないよう、車体が揺れる度に両足で踏ん張る。私の必死な様子を見かねたすらりと背の高い女性から、「場所変わりましょうか」と声をかけられたりする。女性はロングコートの裾を翻し、次の駅で降りていった。嬉しいやら羨ましいやら。私だって隣の高身長男性のように吊革を越えて荷物棚に掴まってみたかった。人々の頭頂部を見下ろしてみたかった。

 超満員の場合は、さらに危険をともなう。人々の圧で軋む肋骨を庇いながら、降りる駅まで耐える。スマホを弄る人の肘で眼鏡が飛ばされないよう気をつける。息は何とかできる。小さいので隙間さえあれば生きていけるのだ。空いている車内での最大の利点は、座席に座った時に余裕があること。荷物だって置けてしまう。但し隣に大柄な人が座れば、その余白は途端に埋まる。人々が平然と利用しているなか、小さい人間は今日もポジション取りに備えてホームに立っている。

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