第3話
ある日のこと。
珍しく、朝から如弥がソワソワしていた。
「ねぇ、今日の現場、どーしても行かなきゃダメ?」
子供のような質問をしてくる如弥を、私は一喝した。
「今まで仕事に穴開けたことないでしょ?何があるのか知りませんが、そんなことしたら、マスコミが放っておきませんよ?」
「…はーい」
すると、まるでおもちゃを取り上げられた子供のように、ショボくれた顔で返事をした。
しかし、その嫌がる理由を、私は現場に入って理解した。
「お、おはようございます。今日は一緒に、がんばりましょーね!」
最初に挨拶に来たのは、ドラマの共演者である千崎鈴であった。今日はクイズ番組、ドラマの宣伝のため、彼女とは同じチームで戦う仲間なのである。
「鈴ちゃんおはよー!うん、優勝めざそーね!」
如弥もスマイル全開で、小さくガッツポーズをして応えた。
と、そこまでは順調だった。
「…あれ、誰かいる。失礼しまーす!」
そのあとに入ってきたのが、誰あろうSMASHセンターまほぽんである。わざと先客を牽制するように大音量で挨拶をしてくるあたり、すでに何かを察知しているようである。
「誰かと思えば鈴ちゃんじゃーん!ドラマ見てるよー!今日はライバルだねー!負けないよー?」
こちらもアイドルスマイル全開で新人女優のマウンティングを図ろうとするが、如何せん自分も若いため、顔がひきつっている。それがさらに恐さを増す。
「はいっ、よ、よろしくお願いします…。では、失礼しますっ…」
恐れをなして、千崎鈴はそそくさと如弥の楽屋を後にした。
さて、残ったのは、爆発寸前の人気アイドルであるが、そこにさらに助長する人物が現れた。
「おはよーございまーす!やっぱりココにいた、麻帆!」
「おはようございます、皇さん」
入ってきたのは、SMASHのメンバー、
「お、おはよー。今日は皆さん、お揃いで…」
サヤカと聖子は、二人の関係を知っている。それどころか、自分たちも如弥を狙っていたものの、リーダー格の麻帆に奪われ玉砕した身なのである。それからというもの、麻帆の取り巻きのように、同じ現場の際は如弥を監視するようになっていた。女子の結束というものは恐ろしい。
「可愛いよねー、鈴ちゃん。まさか…手ぇ出したりなんか、してないよねー?」
怒りに満ちたまほぽんは、眉をヒクつかせながら、わざと外に聞こえるような声で言った。
「ないよー、あるわけないじゃーん。だってまだ子供だよー?生徒役なんだし、先生が手ぇ出したら、犯罪犯罪」
テレビ局の中は誰が聞いているかわからない、如弥は即座に遮った。これを千崎鈴が聞いていたら、相当ショックを受けるだろうな、と私はふと思った。
「ほんとかなぁ?とーっても仲良しに見えたけど?」
「それは、撮影で毎日顔合わせてるから、自然と仲良くもなるよー」
「そんなのずるーい!なら、麻帆もあのドラマ出たいー!麻帆、まだ高校生出来るよね!?」
「で、出来るんじゃない?まほぽん、童顔だし…」
ぐいぐい詰め寄るまほぽんに、さすがの如弥もタジタジの様子である。
ちょうどその時、スタッフから、スタジオに集合がかけられた。
「ほら、呼んでる呼んでる。行こ、まほぽん!」
この機を逃すまいと、如弥は立ち上がり、まほぽんの肩を押しながら楽屋を後にした。その後を、睨みを効かせながら、サヤカと聖子がついていくのだった。
私には、そこまでしてまで余多の女と遊ぶ意味がよくわからなかった。ただ、如弥はどこか掴み所のない人で、決して他人に本性を見せない。私ですら、どこまでが本当の彼なのかわからない。
考えてみれば、如弥は、遊んでいるように見えて、自分に好意を寄せる相手を、ただ幸せにしたい、その為だけに行動しているに過ぎない。なら、如弥の好意は?如弥自身は、人を好きになったことがあるのだろうか。如弥はこれで、幸せなんだろうか。
スタジオへと向かうタレントたちを見送りながら、ふと、私はそんなことを考えていた。
if… 倉城みゐ @kmpanda
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。if…の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
近況ノート
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます