第36話 抜け道【砂地】

 皆とバラバラに転移したヘルは砂地にいた。

「もう!皆は何処なのよ!包帯の中に砂が入ってきてるし…。」

 ヘルが歩くと足跡はサラサラと砂に埋もれ消えていく。


「鬼丸は心配ないだろうけど、レイヴンとオルムが心配ね…。レイヴンは闇雲に動き回って余計に迷っちゃいそうだし、オルムは…。」

 ヘルが頭を悩ましていると遠くに人影が見えた。

「誰だろう?他に誰か居るのかな?」

 ヘルは人影が見えた方に歩き出した。


「それにしても広い抜け道ね…。多分結界を貼ってあるのね。各場所に門番がいるはずだわ。」

 ヘルは辺りを見渡した。


 すると地鳴りがし、砂埃が立ち上がる。


「何かが下を動いてる…。」

 ヘルはその場で高くジャンプした。


 ヘルの居た場所からサンドワームが飛び出してきた。

「サンドワームか…。アレは門番じゃ無さそうね。」

 そう言うと左手をサンドワームに向け呪文を唱えた。

「"ポイズンフィールド"」

 サンドワームの周りに毒が現れ、周りの砂を侵食していく。

 次第にサンドワームの動きが鈍くなる。


「はい。終わり。」

 ヘルは大鎌を振りかぶりサンドワームを両断した。

「向こうに見えた建物から強い気配がしたわね。」

 ヘルはジャンプした時に見えた建物に向かい歩き出した。


 石造りの建物内を進んでいた。

「何だか不安になる造りね。石を積み上げているだけのような…。でも、奥から気配を感じる…きっと門番ね。」


 ヘルが拓けた部屋に出ると中央に祭壇があった。

「あれは…棺?」

 祭壇の中央には装飾の施された棺が置かれていた。

 ヘルが棺に近づくと、

「蓋が開いてる…。」

 ヘルは大鎌を召喚し辺りを警戒する。


 ヘルの瞳に人影が写る。

 人影は後ろを向いていた。


 しかし、ヘルは唾を飲む。

 目が離せなかった。


「人の子か…?」

 ヘルの視界の先にいたのは少年だった。

 黒髪に褐色の肌、紅い瞳。

「僕は"アポフィス"。僕をこの世界に呼んだのは君かい?」

 アポフィスが振り返るとヘルの背中に冷たい汗が流れた。

(ヤバい!ヤバい!ヤバい!何この感じ!?信長と同じかそれ以上の存在感…。)

「わ…私じゃない。私はヘル。ただ此処を抜けたいだけよ。」

 ヘルは動けずに居た。


「ヘル…。他の神話の死者の王の名と同じか。僕はアポフィス。闇と混沌の象徴。君には天敵になるかな?僕は死者の魂を喰らうからね。」

 アポフィスは静かにヘルを見つめた。

「となると、僕は誰に呼ばれたのかな?ヘル知らないよね?」


 大鎌を握る手が湿る。

「わからないわ。アナタがこの道の門番なの?」

(だとしたら…勝ち目が…ない…。)


「門番?あぁ…多分違うよ。それはコイツの事じゃないかな?」

 アポフィスがモンスターの生首を持ち上げる。

「コイツが僕に噛み付いて起こしたからさ。眠りを妨げられるのは嫌いなんだよね。」

 アポフィスの口から蛇のような舌がチロチロと見えた。

 アポフィスは大口を開けると手に持った生首を丸呑みした。


「腹の足しにもならないや。君は美味しいかい?」

 アポフィスが舌なめずりする。

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