第37話 抜け道【火山口】

 アポフィスは舌なめずりしながらヘルに歩み寄る。

 ヘルは目が離せない。

 動けない。


 アポフィスがヘルの肩に手を置く。

「冗談だよ?」

 ニヤリと笑い肩をポンポン叩く。


「僕はこの世界には興味無いんだ。この棺の中でゆっくり寝たいだけなんだよ。誰が僕を呼んだかは少し気にはなるけど、その気になればすぐに見つけられるしね。君はここから出たいだけなんだろう?あの穴に入ればこのエリアから出られる筈だよ。じゃぁ僕は寝るから静かに出ていってね?」

 アポフィスは棺に向かって歩き出した。


「あっ!ヘル。僕、君の事気に入ったからさ、もし困ったら1度だけ力を貸してあげるよ!対価は…言わなくてもわかると思うけど。じゃあね。」

 アポフィスが棺の中に入ると自動的に蓋が閉まり辺りは静寂に包まれた。


「早くここを出ないと…。」

 ヘルは逃げるように出口へと向かった。



 出口に差し掛かると先には魔法陣が描いてあった。

「あの図式は…転移魔法ね。」

 ヘルは魔法陣に触れた。


「アポフィスか…。できれば、もう会いたくはないわね。」

 ヘルは棺に目をやりながら転送されて行った。



 ヘルが目を開けると

「やっときたぁ!」

 そこにはレイヴンが待ち疲れた様子で座り込んでいた。

「後は主殿だけですね。」

 ヘルが後ろを振り向くと鬼丸が壁にもたれかかって立っていた。


 ヘルが辺りを見渡すがオルムの姿は見当たらない。

「大丈夫かしら?」

 ヘルが心配そうな顔をする。

「オルム様なら大丈夫でしょ~?ぶっちゃけ力を使いこなせればこの中で1番強いしねぇ。」

 レイヴンは腕を枕にして寝っ転がった。




 オルムは薄暗い洞窟を進んでいた。

「皆は無事かな?鬼丸とヘルは大丈夫だろうけど…レイヴンは…まぁ多分大丈夫だろう。きっと俺が一番心配されてるだろうな。」

 頭を掻きながら苦笑した。


「にしても、一本道だから進むしかないし出口に行けるよな?」

 不安になりながらも先に進んだ。


 光が差し込む眩しい空間に出た。

 あまりの眩しさにオルムは手で目を隠す。


「ここは…?」

 少しずつ目がなれ辺りを見渡した。


「ここは火山口の中だ。その中の空間の一部を切取り我が縄張りとしている。よく来たなロキの子よ。」

 オルムが目を細め声のする方を見ると、炎に包まれた剣を持った人影がコチラを見ていた。


「ロキの子?あんたは俺の事を知っているのか?」

 オルムは人影を見据えながら刀を構える。


「よい殺気だ。我が愛剣レーヴァテインも喜んでおる。我は元魔剣の王"スルト"。かつてはロキと共に世界を手中に収めるために…友として戦っていた者だ。」

 スルトの姿が光に照らし出された。

 赤髪の大男。

「今はこうして地下の魔剣国を纏めている。」

 スルトが手を広げると壁に様々な場所の映像が映し出される。


「ヘル!鬼丸!レイヴン!」

 3人の姿もそれぞれ映し出された。


 スルトはヘルの映像に目をやった。

「あの白髪の子もロキの子か。アポフィスの元に行くとは運の悪い…。もう一人ロキの子が居るはずだが、一緒ではないのか?残念だ。会って見たかったのだがな。ボザの方に居るのか。」


「ヴァナルの事か…?」

 構えを崩さずオルムはスルトを見据えていた。


「うむ。ロキとボザの子達。フェンリル、ヨルムンガンド、ヘル。来たる戦いの時には共に戦う筈なのだがな。ヨルムンガンドは別名、ミドガルズオルム。お前の事だ。」

 スルトはオルムを指さした。


 オルムはスルトを見据えていたが後ろに気配を感じスルトと気配の間から距離を取り、両方を見据えた。


『オルム君鋭くなったね!森に居なかったから探しちゃったよ。カークを問い詰めてやっと会えたね。』


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