第35話 抜け道【沼】

 皆とバラバラに転移した鬼丸はぬかるみの酷い沼地に居た。

「皆どこ。主殿も…。早く主殿の元に馳せ参じないと。」

 鬼丸が歩く度にヌチャと足音が立つ。


「足場が悪い。視界も悪い。こういう場所はヘルの方が強いのに。」

 鬼丸は辺りを警戒しながら先に進んだ。

「昔を思い出す。信長様は梅雨将軍と呼ばれていたっけ…。大事な戦の時には雨が味方していた…。」


 天井から落ちる水滴に昔を思い出していた。


「………足音………。」

 鬼丸の進む前方からぬかるみの中を走る足音が近ずいてくる。


 鬼丸が目を細め姿を確認するとそこには白いリザードマンが居た。

「人間…?此処ハ我々ノ縄張リダ。何シニキタ?」

 リザードマンは槍を構え鬼丸に向ける。


「この場所に用はない。ただ先に進みたいだけ。」

 鬼丸はリザードマンを無視して進もうとした。


「先?コノ先ハ魔剣国ノ領地。ルーン王ノ許可無ク立チ入レ無イ。人間帰レ。」

 リザードマンは槍を突き出し鬼丸の行く手を阻む。


「あなた達リザードマンは、魔剣国の配下なの?」

 鬼丸の足が止まる。

「我々リザードマンノ住処ハ、地上ノ人間達二奪ワレタ。リザードマンノ鱗ハ良イ素材ダト仲間ハ殺サレタ。ダケド、ルーン王ハ我々二コノ地ヲクダサッタ。リザードマン二繁栄ヲ約束シテクダサッタ。我々リザードマンハ、ルーン王二恩ガアル。ダカラ忠義ヲ尽クス。我ハ、族長トシテ一族ヲ守ル。」

 リザードマンはいきなり鬼丸に槍を振るった。


 しかし鬼丸は槍をかわし、距離をとる。

 刀を抜き放ちリザードマンに向ける。

「忠義に尽くす者を無視して進む訳には行かない。我が名は鬼丸国綱!互いに主の為に譲れぬ道があるなら刃で切り拓く!いざ参る!」

 鬼丸はリザードマンに向かって駆け出した。

 しかしぬかるみに足をとられて思うように動けずに居た。


「人間、コノ地デハ我ニハ勝テナイ。」

 リザードマンは鬼丸の斬撃をかわすと、槍の石突で鬼丸の顎を跳ね上げる。


 鬼丸は寸前に顔を後ろにそらし直撃を避けた。

 そのまま身体を捻りリザードマンに斬り掛かる。


 リザードマンは鬼丸に向かって太刀打ちを叩き付けた。


 鬼丸は左手で鞘を掴むと槍を弾いた。


 辺りには2人の足音と武器のぶつかり合う音が暫く響いていた。


 リザードマンは沼地の上を身軽に動き回る。

 鬼丸は壁や岩を使い、ぬかるみに足をとられないように動き回っていた。


「人間ノクセニヨクヤル!」

 リザードマンは空中の鬼丸に向かって連続して突きを放つ。


「動きづらかったけど、もうなれた。あなたの攻撃は当たらない。」

 鬼丸は空中にも関わらず突きを容易くかわした。

「もう終わり。主殿を待たせるのは嫌だから。」


 鬼丸は天井を蹴りリザードマンに向かって行った。

 リザードマンは槍を突き出した。


 鬼丸は身体を回転させ槍を避け、流れる動きでリザードマンに刀を振った。

「"鬼首威し(おにくびおとし)"」


 鬼丸の刃がリザードマンの首に食い込む。

「ルーン王…」


 リザードマンの首が宙を舞うと身体は血を吹き出し倒れた。


 鬼丸は刀身に着いた血を払うように刀を振ると鞘に収めた。

「私も負けられない理由があるから。さようなら。」


 リザードマンの亡骸を見据えると鬼丸は先の道へ歩き出した。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る