第33話 苛立ち

 カークが持つ情報を聞き出し、隊長室を後にした。

「アイツ絶対殺してやる!」

 レイヴンは苛立ちをあらわにしていた。


「まぁアイツは昔からあんな感じだからな。自分の利益になる事なら何でもするけど、必要なければ切り捨てる。そんな奴だよ。」

 オルムは少し寂しそうな顔をしながらレイヴンに言い聞かす。


「レイヴンは少し鬼丸を見習ってみたら?鬼丸なんて一言も余計な事は言わなかったわよ。」

 ヘルは鬼丸に目をやった。

「………ごめん。見習っちゃ駄目だったわ。」


 鬼丸は殺気を立ち昇らせながら静かにオルムの後を着いていた。


 国境警備隊宿舎の出口に差し掛かると何処かから話し声が聞こえた。

「隊長がまた旅人を利用しようとしてるみたいだな。」

「またかよ…。これで何人目だ?」

「噂では王女も暗殺しようと考えてるらしいぞ。」

「隊長は何をするつもりなのかね?世界征服でもするつもりなのかね。」

「まぁいずれにせよ、前回の旅人の失敗で魔剣国は警戒を強めている筈だから、今回の旅人はついてないよな。」

「どうせ旅人だ。聖剣国の人間じゃないんだ。どうなっても構わないさ!」

 兵士が笑いながら話しているようだ。


 オルム達が近ずいてくるのに気づき声を小さくした。


「…聞こえているよ?旅人ならどうなってもいいだって?君達も腐ってるんだね。」

 レイヴンは通りすがりに兵士達に話しかけた。


「なんだと!貴様ァ!」

 兵士達は武器を構える。

「いいよ!相手をしてあげるよ!イライラしてたんだ!」

 レイヴンも背負った大剣に手をかける。


「オイオイ。止めてくれよ。折角話が着いたんだから、ここは大人しく帰ろう。」

 オルムはレイヴンを止め、ヘルや鬼丸と歩き出した。

 レイヴンは舌打ちをすると兵士に背を向けた。


「へっ!腰抜け達が集まったって役にもたちゃしねぇよ!せいぜい頑張ってくれよな!」

 兵士達は悪態をつき笑い飛ばす。


 ザンッ!


 レイヴンは振り向きざまに大剣を振り抜いた。

 2人並んでいた兵士の首が跳ね上がる。


 頭がゴトリと床に落ちると、首の断面から血が噴き出す。

 兵士達の身体は絡み合いその場に崩れ落ちた。


「あ~ぁ…レイヴン。これは後でヘルから説教だぞ。」

 オルムは少しスッキリした顔のレイヴンを見て肩を落とす。


 騒ぎを聞き付けた兵士達がざわめき出す。


 ヘルと鬼丸も戻ってきた。


 奥からカークが現れた。

「こんな所で騒ぎを起こさないでくれないかな?まったく…。早く抜け道に行ってくれ。僕はこの騒ぎを処理しなければならないから。」

 カークが剣を抜き呪文を唱えた。

「"モーンブレイド"よ、この者達を魔剣国の抜け道へと飛ばせ。"転移"」

 カークが転移の神聖術を唱えるとオルム達の身体は光に包まれ飛ばされた。

「オルム。僕は…。」







「おーい!ヘル!鬼丸!レイヴン!」

 オルムの声は虚しく木霊する。

「まさか、アイツを訪ねたらこんな事になるなんて。失敗したな…レイヴンめ…後で説教だな。ヘルから。」

 オルムがライトの魔法を唱えると光の玉が浮かび上がり辺りを照らす。


 光を頼りにオルムは洞窟の奥へと歩き出した。

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