第32話 多眼のカーク

「なるほど…。君達は魔剣国から離反した者と、どの国にも属さない堕天士なのか。だから、聖剣国としての名を出さずに魔剣国に攻撃を仕掛けられる。そして君達の目的は、魔剣国に忍び込みルーン王を討つこと。仮に失敗しても聖剣国の者ではないから我が国に損害はない。確かに、我が国にとってはメリットしかない話だが…。相手はあの魔剣国の王だぞ?君達がいかに強くても大国に4人で挑むのは自殺行為だ。」

 カークは腕を組み手を顎に当て考え込む。


「その為に貴方に話を聞きに来たの。情報戦の天才。"国境警備隊隊長"兼"王女直属諜報機関グリフォン隊"隊長"多眼のカーク"。」

 ヘルは表情を変えずカークに話しかけた。


 カークは口元を手で隠しながらニヤリと口元を歪ませる。

「なるほど。オルム君は僕の過去を知っているから、僕の情報は筒抜けな訳か。」


「リノの事だから記憶を自分で戻してるかと思って来たけど、戻さなかったのか?」

 オルムはカークに話しかけた。


「きっと一度は戻したんじゃないかな?でも、必要なかったんじゃないかな。僕の為になるような必要となる情報がなかったから、また操作したと思う。つまりオルム君。君も僕には必要の無い人間だった訳だね。」

 カークはオルムを見つめニヤリと笑う。


「そうか…。」

 オルムの顔が前髪で陰る。

 表情は読み取れない。


「ねぇ。ヘル…僕、コイツを殺したい。」

 レイヴンから殺気が湧き出す。

「辞めときなさいレイヴン。今カークを殺せば聖剣国まで敵に回す事になる。現時点では望ましくないわ。でも…いずれ機会が在れば私が殺すわ。」

 ヘルはレイヴンを制止しながらカークに冷たい目を向ける。


「いい顔をするね。機会が在れば斬りにくるといいよ。その時は存分に相手をしようじゃないか!でも、今は魔剣国の王を君達に排除して貰わないとね。いいだろう。僕が持つ情報を渡そう。ただし条件がある。」

 カークは手を広げ大袈裟に反応して見せた。


 ヘルは条件とは何かを聞き返した。

「簡単だよ。ルーン王を排除したら君達の素性を公開して欲しいんだ。ルーン王を殺したのは私達ですと。それだけだよ。」

 カークは手をパンッと鳴らしニヤリと笑う。


 暫くヘルは考え込んで、どうする?とオルムの顔を覗き込んだ。

 オルムは小さく頷くと

「分かった。ルーン王を倒したら俺達が罪を全て被るさ。王殺しの反逆者として。リノの事は言わない。それでいいんだな?」


 オルムの言葉ににっこりと笑うとカークは交渉成立だと手を叩いた。

「それと、オルム君。僕の事をリノと呼ぶのは辞めてくれないか?過去に君と僕にどんな繋がりがあったかは知らないが、今は関わりのない存在だからね。」


 オルムはすまないとだけ口を零した。



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