第20話 魔剣レイヴン=ブランド

 オルムはトールの亡骸に歩み寄る。

 押し潰され身体中から血が飛び散っている。


 トールの傍らにある装飾の見事な黒い大剣に目をやる。


「魔剣ストームブリンガーか…。」

 オルムが拾いあげようとすると。


 ーーーーードクンッーーーーー


「…!この剣は自我があるのか!?剣が魂を喰らおうとしている…。紫淵の様に話せるのか?」

 オルムは落ちているストームブリンガーを見つめ唾を飲む。


 意識をストームブリンガーに集中し、オルムは魔力を送った。


「主!何をしているのですか!」

 その様子に気づいた紫淵が駆け寄ってきた。


 ーーーーードクンッ!

 ドクンッ!ドクンッ!ーーーーー


 ストームブリンガーの魔力が鼓動の様に脈打つ。


「主!離れて下さい!」


 ストームブリンガーが煙に変わる。

 黒いモヤが形を変えて行く。


 やがて煙は収束していき人の形を創る。



 白い髪。

 褐色の肌。

「…貴方が僕を呼んだのか…?創造された剣につき本体を持たない為、お渡しする事は出来ませんが僕が貴方の剣となりましょう。」


 ストームブリンガーはオルムを見据えると跪いた。

「ストームブリンガーとしての召喚はトール様になされ、此度その役目は終わりを告げました。僕はストームブリンガーの分身。それ故に、僕の事はレイヴン=ブランドとお呼びください。レイヴンで構いません。」

 レイヴンはオルムに深々と頭を下げると、オルムを見つめ微笑んだ。


 紫淵はオルムを護るように立ちレイヴンを見た。

「魔剣の意志の実態化。主よ。貴方は特殊な能力を持っているみたいですね。本来、ストームブリンガーは実在しない剣なのです。物語の中で、身体の弱い主人に斬った者の魂を与える魔剣です。時には、主人に内緒で主人の家族や友人を斬り暗躍もしていました。そのストームブリンガーの分身がレイヴン=ブランドです。」


 レイヴンは紫淵を見つめ驚いた様な顔をした。

「君、博識だね!そうだよ。僕は実在しない剣だ。主は、空想上の魔剣や聖剣を実態化させる魔力の持ち主みたいだね!長い間、魔剣として色々な世界に召喚されたりしたけど、意志の実態化は初めてだよ!」

 レイヴンは無邪気に笑い、剣に映る自分の姿を見つめた。

「僕はこんな姿なんだ…。」


 オルムはレイヴンに冷たい目を向ける。

「レイヴンか…。先に言っておくぞ。俺はこの世界を壊す。その為には手段は選ばないつもりだ。もし足を引っ張ったり邪魔するなら…。」


「大丈夫ですよ。オルム様に頂いたこの身体、命はオルム様の為に…。」

 レイヴンは再度跪きオルムに忠誠を誓う。


「そうか…。解った。所でレイヴン。」

 オルムは疑問をレイヴンに投げかけた。


「なんでしょう?」

 レイヴンはキョトンとした顔をして首を傾げる。


「お前は、男なのか?女なのか?」

 見た目では判断できずオルムは困惑していたのだ。

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