第18話 滲み出る闇


「お前なんかが俺の敵になる訳ないだろ?笑わせるなよ!!」

 トールはオルムに向かって走り出す。


(主よ!気を確かに!怒りに飲まれてはなりません!主よ…!)

 紫淵の声が聞こえた気がした。


 怒りの感情が湧き出る。

 俺はトールを敵と認識した。

 俺の進む道を邪魔する存在だと。


 何かが俺の中でキレる音がした。

 意識が遠のく。



 暗い。

 遠のく意識の中でさらに黒い意識が目覚めるのを感じた。


(俺は…トールが赦せない…。)




 オルムを取り巻く雰囲気が変わる。

「お前?誰に言ってるんだ?貴様如きが我を愚弄するか…。」

 オルムがトールに向けて手を差し出す。

「頭が高い。ひれ伏せ。」


 トールはその場に見えない力で地面に押さえつけられた。

「ぐっ…これは…。」

 トールは必死に抵抗しようとしても身体が動かない。


「抗うな。お前如き魔剣士が王である我に楯突くなど万死に値する。」

 オルムから黒いオーラが湧き出る。


「オルム?」

 ヘルは雰囲気の変わったオルムに違和感を覚えた。

「紫淵!オルムはどうしたの!?」

 ヘルは紫淵に呼びかけた。


 すると、紫淵は具現化しオルムの前に跪く。

「王よ。お久しゅう御座います。」


「村正か。この世界は何だ?未だ百鬼が現れて居ないでは無いか。それなのに我が目覚めるとは…。」

 オルムは跪く紫淵を見下した。


「申し訳ありません、王よ。本来であれば王が目覚めるのはもう少し後になる予定で御座いましたが、この世界で王の宿主となるオルム=ミドガルズの精神の振り幅が酷く、一時的に王の意識が漏れ出て居るのかと。」

 紫淵は下を向き表情は読み取れない。


「村正…?紫淵…貴女…。」

 ヘルは紫淵が村正であり、村正の真打ちであると悟った。

 魔剣国のルーン王が召喚出来なかった刀。

 その刀が目の前に居る。


「成程。一時的とは言え村正。其方の顔が見れて良かった。妖しくも美しい刃よ。また其方を振るえる時を我は心待ちにしているぞ。其方の刀身を血に染める時を。」

 オルムは紫淵を見つめ口角を上げながら笑う。


「さて…。では少しの力だがこの下賎の者を処刑するには充分な力であろう。」

 動けないトールに冷たい目を向ける。


「ぐっ…がっ…!」

 身体に掛かる圧が強まりトールは声が漏れる。

 オルムなのに別の何かを感じ、自然と身体が震え出す。


「このまま潰してやろう。蛙の様に無様に死ぬがよい。」

 オルムは圧を強めトールを押し潰した。


 トールは地面に身体がめり込み、あがけば関節は折れ血管は裂けた。

 裂けた血管から血飛沫が上がる。


「下賎の者でも死ぬ瞬間は美しい華を咲かせるモノよな。」

 オルムはニタリと笑うと手を振り降ろした。






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