第15話 復讐者
「はぁはぁはぁ…。」
オルムは刀を構えながら息を切らしていた。
肩で息をし、身体は傷だらけ。
「くそっ!まともな一撃すら入らない!」
刀を前方に突き出し叫ぶ。
「何なんだお前は!」
オルムが叫んだ先に居たのは。
「主よ。私は紫淵です。」
「そう言う意味じゃなくて…。」
オルムは肩を落とした。
「ヘルヘイムの森で可愛らしいヘルに鍛えられ、可愛らしいヘルから1日に何本か稽古でとることは出来るようになり、調子にのり怪物紫淵に挑んだがこのザマである。」
ヘルは今の状況を口に出した。
「自分で可愛らしいとか付けるなよ…。」
オルムはヘルの言葉に苦笑した。
「怪物とはなんですか?私は主に頼まれ稽古をつけているのですよ?それに本当の力を使いこなせる様になれば、怪物は私ではなく主です!」
紫淵はヘルに抗議しながらオルムを見る。
「でも、まだオルムの力の扉が開かない。何かが邪魔をしてる?」
ヘルは目を閉じオルムの中へ意識を集中した。
オルムは自分の胸に手を当てる。
「本当の力か…。」
「主が以前の私との修行の時にだした力ですね。あの力が自由に使える様になれば私なぞ簡単に超えますよ。」
紫淵は刀を鞘に収めながら少し休みましょうかと提案した。
紫淵は刀に戻り、ヘルは森に新たに遺棄された死者を弔ってくると場所を離れた。
このヘルヘイムの森は瘴気により見通しが悪い為、近くの村から口減らしの為に子供が置き去りにされたり、野党や魔物が入り込みアンデッドに殺されたりして森の中には死体が溢れている。
しかも、以前の戦により死んだ魔剣士や聖剣士の遺体も放置されたままだ。
ヘルはヘルヘイムの主として死者を弔い、死者の魂と対話し望む者の魂を剣の意志と統合しアンデッドとして使役している。
「紫淵。ヘルには妖鬼士の事は話さないのか?」
(必要ならば話しましょう。ですが今はその時では無いでしょう。ルーン王に会った時、ヘルは本当に斬れるでしょうか?もし彼女が裏切り敵になったら?確かに今の彼女は復讐心で動いていますが、ルーン王がまた彼女を利用しようとするかもしれません。その時に妖鬼士の事を言ったら?)
紫淵は頭に直接話しかけてくる。
冷静な声で。
「そう…だよな。」
俺は自分の指を組み合わせ下を向く。
「もし仮にそうなったら、俺はヘルを斬るしかないのかな…。」
(主よ。貴方は優しい。しかし、堕天の王になると決めた以上この世界の全てを斬り捨てなければなりません。非情になりなさい主よ。辛い事を言っているのは解ります。ですが、優しさが貴方を苦しめる事になるのです。割り切ってしまうしかありませんよ。)
紫淵の声は冷静だ。
でも、優しさも感じる。
きっと紫淵も同じ道を歩んだのだろう。
親しき者を斬って…。
「紫淵。俺は…」
「オルム!逃げて!!」
ヘルの声が聞こえた方を向くと、ヘルが此方に手を伸ばしていた。
その背後には禍々しい気配を放つ仮面の魔剣士が立っていた。
「やっと見つけたぞ。オルム=ミドガルズ!!」
仮面の魔剣士から放たれる殺気にオルムは刀を構えたーーーーー
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