第13話 "真打ち"と"影打ち"

 俺とヘルは暫くの間、森の中で生活していた。

 気が付けばヘルは本当の兄妹のように打ち解けてくれた。

 この身体に流れる同じ血がそうさせるのか。


 ヘルは紫淵とも会話をするようになった。

 紫淵は身体を具現化させヘルに見せた。

 初めは「媒体無しで意志の具現化ができるの?」とビックリしていたが、次第に慣れてきたようだ。


 そんな時。

「なあ。前に言ってた影打ちと真打ちって何が違うんだ?」

 俺は思った疑問が口をついてしまった。


「…。」

 紫淵は黙り込んでしまった。


「オルム。紫淵も言いたくない事の1つや2つあるわよ。デリカシーの無い人ね。ホント。」

 ヘルは腕を組み俺をたしなめた。


「いえ…これは言わねばならぬ事です。簡単に説明すると、真打ちとは献上されるに足る、一振りです。王や時の権力者に献上される刀は、刀匠がこれだ!という一振りなのです。刀匠は刀を何振りか打ち、その中で一番出来のいいモノを真打ちとし、王や時の権力者、時には神に献上するのです。その際に選ばれなかった他の刀を影打ちと言います。」

 紫淵は自分の刀を見つめた。


「それが真打ちと影打ちか。」

 俺も自分の刀に目をやる。

 紫淵と同じ刀が腰にある。

 正確には同じでは無い。

 俺の腰にあるのは紫淵そのものだ。


「真打ちは献上され、その方の財とされます。しかし影打ちは、破棄されたり安価で売買されたりもします。私の影打ちも…。」

 紫淵は目を伏せる。


「紫淵は真打ちなのよね?だからそれだけの力があるんでしょ?凄いじゃない!数ある刀の中で一番なんだから!」

 ヘルは紫淵の顔を覗き込んだ。


「ありがうヘル。でも、私の影打ち達はどんな思いなのでしょうね。私からしたら、私なんかよりずっと美しい刀も、斬れ味の良い刀も可愛らしい小太刀も力強い槍もいっぱい居ました。だから、真打ちはきっと影打ちには憎まれているのでしょうね。」

 紫淵はヘルから目を逸らし俯いた。


 悲しそうな紫淵にかける言葉が見つからずヘルも黙り込んでしまった。


「大丈夫ですよヘル。私は割り切ってますから。もし私の影打ちが敵として現れるのなら、私は躊躇いなく斬ります。私が主と進む道に敵として阻むのなら。主の刀として私は戦います。」

 紫淵はヘルの頭を撫でながら俺を見つめた。


「紫淵は強いな。俺も自分が歩む道を邪魔する者は斬り捨てて行かないとな…。それが同じ血が流れた者でも…。」

 俺は自分の手の平を見つめた。


 俺には王達の血が流れている。

 ヘルを兵器として見たロキと同じ血が。

 いつか俺も己の欲に取り込まれたらそうなるのか?

 今は解らない。


「取り敢えずは力をつけて、魔剣国に殴り込みだな。」

 俺は紫淵とヘルに笑いかけた。


「紫淵はともかく、オルムはせめて私を超えないとね。」

 ヘルは笑みを浮かべると大鎌を回しだした。


「さあ。稽古をつけてあげますわ。オルム。」

 ヘルは大鎌を構え俺に手招きする。


「しゃぁ!次こそヘルから一本とってやる!」

 俺も刀を構えるとヘルに向かって笑いかけた。


「ふふふ。主よ。強くなりなさい。この世界を斬る為にも。」

 紫淵は二人を眺め微笑んだ。



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