第12話 人工堕天士

「影打ち?それが刀の銘なのか?」

 オルムは首を傾げる。


「違うわ。刀の銘は村正。村正の影打ち。そう言っていたわ。」

 ヘルの言葉に紫淵が震える。


「各国の王は村正の真打ちと呼ばれる刀を召喚しようとしてたみたい。けれど、王達には真打ちと呼ばれる村正は召喚出来なかった…。」

 ヘルはオルムの腰の刀を見つめた。

「オルム。ソナタの刀の銘は?」


「この刀は紫淵。確かに意思の疎通ができる刀だ。」

(主よ…。)


「やっぱり…。さっき、ミカエラとアザゼラで造られた堕天士に各国の王の遺伝子を使ったと言ったわね?各国で1人ずつ王の遺伝子で造られた堕天士が居るの。魔剣国アザゼラの堕天士ヘル。聖剣国ミカエラの堕天士フェンリ。そして中立国ルシフェラの堕天士。それがソナタ。オルム。ソナタが私達の兄弟とも言える3人目の堕天士。そして…オルムの刀。紫淵。その刀は特別な力を秘めてるはず。私には見えるの。この腐食しかけた左目には堕天士の力が集まってるわ。だから紫淵が普通の刀じゃないのが解る。それは刀だけじゃない。オルム。ソナタも。」

 ヘルは左目の包帯に手を当てると左目をあらわにした。

 肌は青く変色し、額から左の頬まで痣のように拡がっていた。

 しかし左目の紫色の瞳は力強い光を放っていた。


「今はまだ、自分の力を扱いきれていないだけ。オルムの秘めている力は私なんか遠く及ばない。オルムならきっと彼の王達も倒せる。」

 ヘルは真っ直ぐ俺を見つめている。


「俺の秘めた力…って事は俺はまだ強くなれる。」

 オルムは自分の手の平を見つめ握りしめる。


「だから、同じ造られた堕天士として力を貸してちょうだい。私がアザゼラに復讐をする時に力を貸して欲しいの。その代わりオルムの力を解放する手助けをするから。」


 ヘルの言葉に暫く考え込んでしまった。

「俺は…。」


(主よ。貴方はいずれ聖剣国の王も魔剣国の王も倒さねばなりません。今はヘルに協力し先に魔剣国の王を倒しましょう。)

 紫淵が悩んでいる俺の背中を後押しする。


「俺は、聖剣国ミカエラの王も魔剣国アザゼラの王も倒さないといけない。だから、ヘルの申し出を受けよう。魔剣国の王を倒すのに協力する。」

 俺はヘルを真っ直ぐ見つめ返した。


「ありがとう。私はアザゼラの王、ロキが許せない。自分の遺伝子を使い造られたとは言え娘とも言える存在を簡単に棄てた。私が戦に行くまでの時間は本当に幸せだった。ロキを父と呼び、ロキも私を娘と呼んだ。なのに…。」

 ヘルの瞳から涙が零れる。


 俺は気がついたらヘルを抱きしめていた。

「ヘル。魔剣国の王に認めさせよう。ヘルの存在を。失敗作なんかじゃないって。」


 俺の腕の中でヘルは声を出し泣いた。


 疑似の家族愛で少女を洗脳し、幼さの残る少女を兵器とし、戦場に送り出し期待通りの結果が出なければ切り捨てる。


(魔剣国アザゼラの王 "ルーン=ロキ"。俺はお前を認めない。許さない!!)



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