第11話 失敗作
(何だか楽しそうに笑ってますね。)
紫淵はどこか冷めた感じだ。
「そうだな。どんな幻を見てるのかな?」
オルムは刀を肩に担ぎながらダーインスレイブに向かい歩みを進める。
「今の技は相手に幻覚を見せる水牢に閉じ込めて動けなくする技なのね。」
ヘルは岩の上に座り顎に手を当て足をブラブラさせていた。
「本当ならこのまま斬り捨てて終わりだけどな。」
オルムはヘルに向かい話しかける。
「これで、話しをする気になったか?次は君が相手とか言うなよ?はっきり言って俺に勝ち目は無いからな。」
オルムは警戒しながらも先程よりは気持ちに余裕が持てた。
「はあ。やっぱただの魔剣士が媒体じゃ駄目ね。それで?堕天士についてだったわね。」
ヘルは足をブラブラさせたままオルムを見た。
「あぁ。この森に堕天士は居るのか?」
ヘルに殺気がない事を確認するとオルムは刀を鞘に収めた。
「居ないわよ。この森には生きた堕天士は勿論、アンデッドの堕天士も居ないわ。居るのは堕天士になれなかった出来損ないだけ。」
ヘルは悲しそうな顔をした。
「堕天士になれなかった?」
俺はこの言葉に不安感を覚えた。
「そう。ルシフェラで人工的に堕天士を創り出そうとしているのは知ってるわよね?その実験はルシフェラだけじゃないの。ミカエラもアザゼラも秘密裏に進めて居るわ。」
俺と紫淵は黙って話しを聞いていた。
「堕天士は普通の魔剣士や聖剣士の力を遥かに凌ぐ力を持っているわ。だから各国共に自国強化の為に、堕天士を創り出そうとしているの。ルシフェラは独自の情報があるみたいで、ほぼ完成に近ずいているみたい。ただ、完成しても確実に堕天士が産まれる訳じゃないけど。」
「なるほど。」
オルムは腕を組み頷く。
(主は適当に相槌をうっておいて下さい。私が聞いておきますから。)
俺が余り理解出来ていないのを紫淵には見透かされていた。
「…。」
なんだか複雑。
「そして、この地での戦の時にミカエラとアザゼラの両国は試作の堕天士を参戦させたの。ミカエラの人工堕天士は成功を収めたわ。他の聖剣士を凌駕する力でこの森での戦に勝利をもたらした。逆にアザゼラの人工堕天士は失敗に終わった。刀は容易く折れ、内なる力に耐えきれず身体は腐りだし、国に捨てられた。初めての実験と言うこともあり、堕天士の基に使われた遺伝子は両国の王の遺伝子。つまり、ミカエラとアザゼラの堕天士は兄弟みたいなモノね。」
ヘルは木々の隙間から射し込む光を見つめた。
「もう検討はついたわね?アザゼラの堕天士実験の失敗作。それが私よ。国に捨てられてこの森、死者の森ヘルヘイムの主としてアンデッド達を作り出し、アザゼラに復讐する為に私はここで力を溜めているの。この森の瘴気は私と相性が良くて。」
ヘルは無邪気な顔で俺に笑いかけた。
でもやはり悲しそうに見える。
「俺もルシフェラの堕天士実験で造られた存在だよ。」
オルムはヘルに語りかけた。
「そう。ソナタも…。でも、ソナタは…オルムは私達とは決定的に違う所があるわ。オルム。刀と意思のやりとりが出来るわよね?私達、ミカエラの堕天士と私は与えられた刀なの。王が召喚した内の一振り。自分で召喚した訳じゃないの。私は本来この鎌。」
ヘルは大鎌を簡単に振り回す。
「与えられた刀…。」
(…。)
「王はその刀をこう言っていたわ。"影打ち"と。」
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