第6話 微笑苦笑苦情

「紫淵…。」

 俺は散っていく光を見つめた。

 何故刀を振り抜いた?

 何故紫淵を斬った?


 俺は、死ぬのが怖いんだ。

 だから斬った。


 守りたかった。

 でも、自分の命が大事だった。


 きっとこの先、覚悟を決めてもいざとなれば足掻くだろう。

 自分が死なぬ様に。

 相手を斬り捨てるだろう。


「俺は…。」

 俺はその場に崩れ落ちる。


「何を泣いているのですか?」


「泣いてなんかないさ。ただ、俺は自分の命が大事なんだ。だからいざとなれば非常になる。相手の命を簡単に斬り捨てる。」

 俺は自分の刀を見つめ答えた。


「それでいいのですよ。死が怖くない者など居ません。恐れは弱さではありません。」


「紫淵…俺は。この世界を斬る。力をつけて、お前の役割を果たす。」

 俺は刀の柄を強く握り、改めて村正に誓う。

「村正よ。お前の全てを俺に委ねてくれ。」



「全てを委ねるにはまだ力が足りませんな。」


「さっきから何なんだよ。耳に残る紫淵の声が…………え?」

 俺は、ハッとして頭を上げる。


 そこには紫淵がニヤニヤしながら俺を見下ろしている。


「なっ…!紫淵!?何で!?さっき確かに光になって…。」

 俺は目を丸くし何度も目を擦る。


「直ぐにまた会えると言ったでしょう?この姿は思念の具現化。刀に宿る私の思念体なのですよ。」

 紫淵は口角を上げたまま俺を見る。

「いや…でも…えぇー…………。」

 俺は項垂れた。

(マジかよ。うわぁ…はずっ!)

 顔が熱くなるのが自分でも解った。

 紫淵はきっとニヤニヤしながら俺を見下してる!

 俺は顔を上げず紫淵を盗み見ると。


 紫淵は優しく微笑んでいた。

「主よ。貴方は今後色々な場面で死と隣り合わせになり決断を迫られるでしょう。ですが決して迷っては成りません。貴方の代わりなど居ないのですから。この世界は繰り返された世界。しかし、今までの世界には貴方は居なかった。今、この世界に異変が起きて居るのです。貴方という存在が特異点になりうる存在なのです。」

 紫淵の顔から微笑みは消え、凛々しく俺を見据えた。

「主よ。今一度誓いましょう。私は貴方の力。世界を終わらせるまで、貴方の盾となり刃となりましょう。ですから主よ。貴方は堕天の王と成り世界を私を解放して下さい。」

 紫淵はかしこまり俺の前に跪く。

「まだまだ、力の足りない俺を王として期待してくれている紫淵の為にも俺は俺の出来るだけの事はやってみるよ。これから長い戦いになるだろうけど、俺を導いてくれ。紫淵。いや村正。」

 俺は跪き頭を垂れる紫淵の手をとる。


「貴方の御心のままに。」

 紫淵は俺の手の甲に唇を添える。


「さて。では主よ。力の段階が一段上がった所で、今度は技の伝授と行きましょう。まだ世界の審判まで時間があるとは言え、時間は無限では無いのですから。一秒でも多く剣を振り、鍛えなければ。」

 紫淵は颯爽と立ち上がると、ニヤリと笑う。


「うわぁ…紫淵。良い顔してるな。」

 俺も紫淵に釣られて自然と笑いが込み上げてくる。


「では、まいりますよ!主よ!」


「しゃあ!やってやるさ!死なないように!」


 俺と紫淵は互いに刀を構えた。

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