第4話 スパルタ

 あれから色々あった。

 あの頃の俺は、甘くみていた。

 うん。本当に。


 なんかゴメンなさい。

 簡単に堕天の王になるなんて口にして。


 でも、あの時は本気で考えて答えを出したつもりです。

 今も意思は変わりません。

 だから…


「少しは手加減くらいしろぉぉぉ!!」

 俺は飛んでくる斬撃をギリギリ躱しながら逃げ惑う。

「避けるのは上手くなりましたな!避けるのは!!」

 そう言うと紫淵はいきなり俺の目の前に現れる。

「ちょ…縮地かよ!」

 紫淵から距離を取ろうと後方へ飛ぶ。


「遅い!」

 紫淵の一言と共に頭上に刀の峰がうち降ろされる。


「痛てぇぇぇぇぇ!刃じゃなくても、ただでさえ村正は薄いんだから、頭割れるぞ!?」

 俺は打たれた頭を撫でながら抗議した。


「主よ。技の修練であれば1人でもできますが、折角2人で行っているのですから実戦の様に修練せねば意味がありますまい。それに、逃げてばかりでは意味を成しません。」

 紫淵は半分呆れた様に肩をすくめる。


「お前が構えると殺気が凄いんだよ!」


「主よ。私は刀です。クレイモアの様に頑丈には出来ていません。刀は一閃の元に相手を斬るのが本分、一撃に殺気を込め無ければ意味が無いのです。主は、才は有れど気概が足りません。今までの様なモンスター達なら、何とか倒せましたが手強いモンスター、聖剣士や魔剣士が相手で尚、命のやりとりを行うとなると、才だけでは到底勝てません。」

「そう言われても。」

 確かに俺の剣術は今まで不殺の剣だった。

 学院内では、殺しは御法度だったし素振りでは人は殺せない。

 世界を憎んでいても、相手を憎んでいる訳ではない。

 それに、俺は。

 俺は自分の手を見つめる。


「主。相手を斬るのが怖いですか?」

 紫淵の一言に俺は身体が硬直する。

「それは…。」


「私は主の過去も知っています。貴方が何故、そんなに人に対しての感情を殺しているのかも。貴方は無意識に己の負の感情に蓋をしているのです。それは貴方自信が自分と向き合い、己の感情を解放するしかないのです。」


「自分の本当の感情が怖いんだよ。またあの時の様な事が起きるんじゃないかって。」

 自分の中に別の自分が居るような感覚。

 相手を傷つけ蹂躙し得る快楽。

 忘れたくても忘れられない生温かい鉄の匂い。

 耳に心地よい断末魔。

 手に残る肉を斬る感触。

 全てが心地よく、身を委ねてしまいたくなる。


 本当はもう1人の自分なんて居ない。

 それが俺の本質なんだって頭では理解している。

 でも、心が認めない。


「主よ。全てを解放して下さい。」

 紫淵の言葉が刺さる。

「私が本当の貴方を捩じ伏せて、貴方に必要な物を教えましょう。」

 そう言うと紫淵は刀の柄を俺の額に当てる。

「さあ。主よ目覚めなさい。貴方の本当の力を見せて下さい。」


「なっ…!」

 意識が遠くなる。

 ーーーーー違うーーーーー

 身体の奥から黒い感情が溢れ出す。

 頭はハッキリしている。

 でも、今までとは思考の感覚が違う。

 言葉では言い表せない。

 俺はーーーーー



「…フンッ。本当の俺?今も昔も俺は俺だ。あの時、俺にたてついた野郎共を皆殺しにした時も、クラス対抗でアイツの腕を切り落とした時も、そして今も。気な食わないから斬った。ただそれだけだ。お前も斬られたいのか?」

 俺は剣先を紫淵に向ける。


「斬れるものならどうぞ。貴方に敗北を教えて差し上げましょう。」

 紫淵は刀を鞘にしまうと腰に構える。


「さあ。どうぞ。」

 赤い瞳が冷たく光るーーーーー

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