第3話 妖刀村正
村正は俺を真っ直ぐに見つめ、口を開いた。
「貴方は妖鬼士なのは本当です。そしてこの世界に刀を持つ者も何人か存在します。しかし、刀を召喚するだけなら、ただの王の素質です。王の素質とは本来、ありとあらゆる種類の刀剣を召喚し使役する事ができます。しかし、刀の存在が公になって居ないので、存在を知らず召喚される事はほぼありません。」
なるほど、と話しを聞いていく。
「審判員達が刀の存在を知っていたのは、彼等は転生者だからです。過去に起きた世界の審判の時から何度も何度も転生しているのです。」
転生者、聞き慣れない言葉に眉をしかめる。
それでも村正は話しを進める。
「そして、妖鬼士は貴方だけです。世界の審判の時に現れる唯一の存在。その条件は妖刀村正を所持する王の素質。しかし過去の主達は妖鬼士の本当の役割を知ると、私を破棄したり…」
村正は言葉を詰まらせる。
「目的を果たせず自害または討死しました。」
悲しげに瞳を伏せるが、直ぐにこちらを真っ直ぐに見つめ返す。
「本当の役割?目的?」
俺は村正の真剣な瞳に、真っ直ぐな瞳を逸らさぬよう見つめ返す。
「妖鬼士の本当の役割は、異界の存在、妖の王となるのです。そして私、妖刀村正を使いこの世界の王を斬るのです。そもそも堕天とは、この世界の理から外れ、異界に組みする事を意味します。本来であれば他の堕天士も妖に組みし、この世界を終わらせる役割を担います。しかし審判員達が歴史を操作し堕天の意味を改変し、秘匿しています。それに、聖剣国と魔剣国の王達の力は過去の堕天士達の力を超越しており、妖鬼士の力でも倒せませんでした。しかし、貴方なら…。」
今にも泣き出しそうな顔をし俺を見つめる。
「まだ全部は理解出来るほど頭が追いついてないけど、何となくは解った。でも、何故俺なんだ?」
俺は指を組み合わせて前のめり気味になる。
俯き、不安を悟らせない様に。
「貴方は自分の出生は御存知ですね。この国では2つの国の騎士階級以上の人の遺伝子を使い、人工的に堕天士を造る実験が行われて居ます。しかし、必ずしも堕天士が産まれる訳ではありません。そして、貴方に使われた遺伝子が特別な力を持っていたのです。貴方の両親共に堕天士、そして双方共に巨大な力を持っています。」
両親…?
「俺の親…?親か…産まれた時から独りでずっと施設で育った。今更親と言われてもな。」
「貴方が世界を憎んでいる事は、知っています。召喚され、貴方の手の中で貴方の心を見ました。だからこそ、妖鬼士となり世界を終わらせるんです。堕天士達を妖をまとめ、"堕天の王"になるのです!!」
村正は俺の手の上へ自分の手を重ねる。
「私は貴方の刃です。貴方の敵となるもの全てを斬ります。貴方の力です。世界という敵を斬る力を貴方に…。」
「俺が世界の敵になる…か。」
俺は目を閉じ村正の意志を感じる。
「そうだな、こんな世界は終わらせるべきなんだ。争いの為に人が造られ、争いの為に育てられ、争いの為に記憶操作され、大切な人と殺し合い、殺し殺され…争いの血の連鎖を断ち切らないと…。俺が罪を背負う。妖鬼士として、堕天の王として。」
俺は己の意志を口に出した。
自分でも突拍子もない事を言ってるのは解っている。
でも、この世界が嫌い、憎んでいる事は確かだ。
終わらせる力があるなら、俺の手で終わらせてやる。
村正は俺を見つめて優しく微笑む。
「貴方なら、この世界を終わらせる事がきっとできます。世界を終わらせ、全ての憎しみの、悲しみの連鎖から人々を、私を解放して下さい。」
窓から射し込む月の明かりが村正を照らす。
「しかし、今の貴方の力ではかの王達に太刀打ち出来ないでしょう。暫くの間、私は村正の銘を隠し貴方は放浪者として力を磨くのが良いでしょう。」
「そうだな…。」
話がまとまったと思ったら急に眠気に襲われた。
「今はお休み下さい。私は貴方の傍に。悲願が達成されるその日まで…。」
俺はボヤける頭で村正を見ると悲しげな瞳が俺の顔を覗き込んでいたーーーーー
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