第2話 違和感

 王の素質か…

 そんな事を考えながら俺はベッドに横たわる。


 ベッドの脇には村正、もとい紫淵がある?


 刀、だよな?

 あれ?


 何で刀が敵を斬る為の武器が正座してんだ?


 視界の先には黒髪の女性が座っている。

「主よ。此度は召喚して頂き有難う御座います。改めて自己紹介を。私は村正。別の世界の刀です。訳あって妖刀と呼ばれておりました。」

 女性は村正を名乗る。


「いやいや!待て待て!まず、何故刀が人の姿になってるんだ?!それに刀?俺は聖剣士の素質だったんじゃないのか?」

 俺はベッドを飛び起きると村正に質問をぶつける。


 村正は溜め息をつくと俺を見つめた。

「主は、聖剣士でも、魔剣士でもありません。妖鬼士(ようきし)なのです。」


 妖鬼士?

 俺が首を傾げていると。

「妖鬼士とは世界の審判が起きる時に産まれる救い手で御座います。この世界の歴史からは抹消され記録にも残らない異端の存在。それが妖鬼士で御座います。」

「歴史から抹消?異端?世界の審判?」

 ますます訳が分からない…


「混乱されているのは解りますが、主は戦わなければなりません。」

 村正の赤い瞳が真っ直ぐに俺を見つめる。

「戦う?何と?」

 俺はシーツで手汗を拭いながら村正を見つめ返す。


「妖(あやかし)と呼ばれる異界の軍勢。」


 妖?

「その妖ってのが世界の審判ってのをするのか?」

 気が遠のきそうな話しになってきた。


「いいえ。世界の審判は世界そのモノが行います。世界が人間世界に繁栄をもたらす為に判断をし異界との扉を繋ぎます。その時に人間が勝つのか、妖が勝つのか結果によって審判を下し世界をリセットします。それがこの世界の意思なのです。」


 俺は呆気にとられていた。


「主は妖を倒し、世界の継続価値を世界の意思に見せなければなりません。主が負ければ世界はリセットされ、今の世界は白紙に戻るでしょう。しかし、主が負ける事はありません。何故なら主は、私の主なのですから。」

 村正は自信に満ちた瞳を俺に向ける。


 いやいやいや

 何?その自信!?

 落ちこぼれの俺だよ?

 それに妖鬼士だとしても、刀1本?でどうしろと?

 色々考えてる内に違和感に気づいた。

「なあ、村正。お前嘘を着いてないか?」

 俺は村正に投げかけた。


「嘘?何の事でしょうか?」

 村正は真っ直ぐ俺を見つめる。

「お前の話しの全てが嘘と言う訳じゃないだろうが、矛盾や違和感だらけだよ。まず、記録や歴史から抹消されているはずの妖鬼士、それはお前の様な刀を振るう者なんだよな?ならば、記録や歴史にも無いはずの刀を何故、審判員達は知っていた?それに、世界のリセットを止めるのならば、本来妖鬼士が現れれば先頭に立たせ戦いの準備をさせるものじゃないか?」

 俺は違和感を頭でまとめ口に出す。


 村正は黙ったまま俺を見つめる。


「審判員達は刀が召喚された事に驚きはしたが、銘を聞き害が無いと判断したのかただの王の素質だと審判を下した。って事は俺の他にも刀を召喚した者が何人か居る訳だ。審判員達は刀の存在を知っている、そしてその刀の中でも銘を気にした。恐らくあそこで村正の銘を言ったら何かアクションがあったはずだ。と、まあ色々言ったがあくまで、俺の違和感だけどな。」

 頭をかきながら村正に目を向ける。


 村正は俯き、ふうと息を吐いた。


「全てを話せば主は私を捨てるでしょう。今まで、何千年もの間の主の様に。」

 村正は俯いて呟く。

 その表情は前髪で隠れよく見えない。

「ですが、そこまで気づかれたのならお話し致します。」

 村正は顔を上げ俺を見つめた。


 その顔は凛々しく美しい、見る者を魅了する特別な何かに見えた。





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