堕天の王 ~世界が俺の敵になる~

狐塚 間介(キツネヅカ マスケ

第1話 王の素質

 この世界には、現在3つの大国が存在する。

 聖剣国ミカエラ

 魔剣国アザゼラ

 中立国ルシフェラ


 聖剣国と魔剣国はそれぞれ名前の通り、聖剣士と魔剣士が所属していて長年戦いを続けている。


 その他にも小さな国がある?あった?らしいがいずれかの国に滅ぼされ、或いは吸収されたらしい。


 中立国ルシフェラは中立国と言えば聞こえはいいが実質傭兵国家だ。

 学院で入学の時に素質を判断される。

 聖剣士か魔剣士かと。


 それぞれのクラスに配属されことある事に、クラス対抗などと銘打たれ争わされる。


 戦争の縮図だ。


 卒院の時に再度素質を確認する。


 その後、それぞれの国へと配属されていく。


 それぞれの国へ配属された後は、学院内での関係は強制的に記憶操作と共に破棄される。

 つまり、親しき仲の者がいても違う国に配属されれば、記憶を消され明日には敵同士となる。


 だが数百年に1度、聖剣士でも魔剣士でもない素質を持った者が産まれると言う言い伝えもある。

 その者は、中立国ルシフェラの法からは裁きを受けない存在として扱われる。

 聖剣士と魔剣士の両方を持ち、"王の素質"と呼ばれている。

 王の素質は自分で今後を決める事ができる。

 聖剣国でも、魔剣国でも配属されれば騎士への配属が約束されており、初日から部下を与えられ屋敷を与えられ、人生を約束されている。


 力を封印し市民として生活も可能。


 他には自分で国を起こす事もできるらしい。


 聖剣国と魔剣国は同じ時に産まれた、王の素質による国だ。

 それぞれの国の王は学院時代の友人でありライバルであったらしい。


 記憶を残したままお互いが国を創り、戦いを続けている。


 王の素質とは覇道を歩ませる鎖なのかもしれない。

 故に別名


 "堕天"とも呼ばれている。




 とまぁ歴史を振り返ってみたものの、俺はこのまま聖剣国へ配属となるんだろうな。


 卒院を言い渡された俺はこの後、最後の判断が下される。


 そこでまさかあんな事件が起きるなんてーーーーー




 俺の名は"オルム=ミドガルズ"

 中立国ルシフェラの学院生だ。


 はっきり言って落ちこぼれ。

 一応、聖剣士の素質が有ると判断されて聖剣士クラスに配属されたけど、着いていくのでやっと。

 何とか卒院のラインまではギリギリ来られた。


 クラスでは、卒院するクラスメイト達が未来を語り合っているが、俺は独り。


 俺には友と呼べる存在は居ない。

 だから、記憶操作での新しい人生を少しばかし期待している。


 まぁ落ちこぼれだから、配属されても能力は変わらないかな?


 クラスから1人、また1人と卒院審判に向かって行く。

 最後の1人になった。

 俺の番だな。

 さて、大して愛着もないクラスに別れを告げ俺は審判の間へ行くとするかな。


 重々しい扉の前で俺は息を飲む。

 解ってはいるけど、やはり試験や審判って結果が解ってても緊張するものだな。


「オルム!オルム=ミドガルズ中へ!」

 扉の前に居るローブ姿の男に呼ばれる。


 審判員の最下級の男だ。

 最下級と言っても、中立国ルシフェラでは最高権力の審判員(ジャッジメント)の一員なんだから皮肉なものだな。


 扉が開かれ、俺は12人の審判員の真ん中に立つ。


「これより最後の審判を下す。己が心を剣を示せ!」


 審判員が手を掲げると俺の足元に魔法陣が浮かび上がる。


 俺は自分の剣に意識を集中させ鞘から抜き放つ。


「さぁ!オルム=ミドガルズよ!心を示せ!」


 言われるがまま俺は魔法陣の中央へ剣を突き立てる。


 本来であらば、ここで剣は姿を変え聖剣か魔剣になり自分の生涯の武器として命を共にする剣の姿になるのだがーーーーー



 俺の手の中で剣が姿を変えていく。


 俺は聖剣士の素質として聖剣士クラスに配属されたはずーーーーー


 なのに。


 放つ光は禍々しくまるで魔剣の様だ。


 しかし、魔剣とも違う形へと変化していく。


 審判員達がざわめきだす。

「オルム!貴様は何者なのだ!?」

 1人の審判員が声を荒らげた。


 俺が何者か?

 そんなの俺が分かる訳ないじゃないか。


 俺達、中立国の人間の一部は聖剣国と魔剣国の騎士達の遺伝子を組み合わせて造られる。


 つまり人工的に造られた人間なのだ。


 俺、オルム=ミドガルズも両国の人間達の遺伝子により造られた人間だ。

 親も知らず、産まれ育った。


「やはり、奴らの遺伝子を組み合わせて創り出したのが間違いだったのだ!!」

 審判員達が口々に勝手な事を喚く。


 "奴ら"?

 こいつらは俺の親とも言える存在を知っているのか?


 そんな事を考えていると禍々しい光は手の中へ集束されていく。


「この剣は…」

 思わず疑問が口をついた。

 今までの授業の中でも、様々な資料の中でも見た事もない形へと変化していた。


(貴方が主か)

 頭の中に声が聞こえる。

 女性の声だ。


 誰だ!?

 と聞きたいが、この状況でならば1つしか答えは無いだろう。


(お前が俺の剣なのか…)

 俺は手の中の剣に意識を向ける。


(左様、私は"村正"。この世界の剣ではありません。)

 この世界の剣ではない?

 何を言っ…


「オルム!」

 審判員達に名前を呼ばれ我に帰る。


「お前の剣は!いや、剣ではない!刀だ!お前の刀は…名を何と言う!!」

 審判員の1人がオルムを指さし叫ぶ。


「カタナ?名前…。」

 俺が刀に意識を向けると


(私の銘は"村正"。異世界では妖刀と呼ばれていた刀です。ですが、この世界では私の事は"紫淵(しえん)"とお呼び下さい。理由は後ほど説明致します。)

 なんだか納得は出来ないが、村正と言う名前を言うのは非常に不味い気がするので、

「"紫淵"と言います。」

 村正、もとい紫淵の言う事を聞くことにした。


「紫淵…聞いたことも無い名だが。」

 審判員は互いに顔を見合わす。

 ざわめきは次第に静寂へと変わった。

「オルム=ミドガルズよ。そなたを"堕天"とする。王の素質を持つ者よ、これよりのそなたは中立国ルシフェラの法に縛られぬ。そなたが望むままに生きよ。」



 は?

 俺が堕天?

 落ちこぼれの俺が?

 王の素質?

 いやいや…


 俺が固まっていると、

「オルム=ミドガルズよ。そなたはこれよりどうする?」

 審判員の1人がオルムに問い掛けた。

「どうすると聞かれましても、自分でも何が何だか…。」

 俺が混乱しているのが分かったのか、

「では、1日の猶予を与える。明日、そなたの道を示すのだ。聖剣国に行くか、魔剣国に行くか、或いは市民となるか、はたまた国を起こすのか。選択はそなた次第だ。」

 審判員はそう言うと足早に皆部屋から出ていった。


 独り部屋に残された俺は刀"紫淵"を見つめたーーーーー


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