第41話無礼討ち4

「それで、そいつらの後をつけたのか?」


「はい、旦那」


 七右衛門は手先の菊次郎から報告を受けていた。

 日本橋芝居町の一件を仲裁したのがこの菊次郎だ。

 菊次郎は元々盗賊だったが、七右衛門に捕縛され手先となっていた。

 幼い頃両親を武士に斬り殺され、孤児となり地をはいずるように生きてきた菊次郎は、大の武士嫌いであったが、元々は商人の七右衛門が武士として活躍するのを面白がり、喜んで手先となっていた。


「相手は確かに武士なのだな?」


「それはまだ分かりませんが、少なくとも御家人の屋敷には入っていきましたよ」


 菊次郎は強請五人組の後をつけていた。

 若殿役が心配していた通り、あの場にいた七右衛門の手先は一人ではなかった。

 菊次郎以外にも背中に商品を担いで歩く手先が三人もいたのだ。

 菊次郎も含めて四人が代わる代わる入れ替わり、後をつけているのがばれないように、慎重に尾行したのだ。


「その御家人屋敷が誰の屋敷か調べてくれ。

 手空の者は全て使っていい。

 その者は平気で無礼討ちしようとしたのであろう。

 油断したら女子供まで殺されてしまうかもしれん。

 必要なら捕縛して構わん」


「大丈夫なんですか、七右衛門の旦那。

 相手は本当の御家人かもしれないんですぜ。

 もしかしたら、旗本が家名を憚って御家人の屋敷を利用しているかもしれませんぜ」


 菊次郎はからかうように挑むように七右衛門に質問する。

 面白いと思って七右衛門の手先にはなったが、武士嫌いが時々頭をもたげる。

 特に七右衛門が与力然としていると、七右衛門が与元町人という意識が小さくなってしまい、武士を相手にするように反発してしまうのだ。


「構わん。

 町場で暴れるようなら、町奉行所与力として見逃すわけにはいかん。

 気にせず捕縛しろ」


「ふふんん。

 この耳でちゃんと聞きやしたぜ。

 後で言っていないはなしですぜ」


「心配なら気の合う者を集めてこい。

 皆の前で同じことを言ってやる」


 菊次郎は言葉通り、手先の中で気の合う連中を集め、七右衛門に同じ事を口にさせ、言質をとった。

 そしてその仲間達と、御家人屋敷を完璧に包囲して調査した。

 旗本屋敷も御家人屋敷も看板など出ていない。

 武士である以上、襲撃を警戒して看板は出さないのだ。


 だから同じ武家の屋敷で話を聞く訳にもいかなかった。

 そんな事をすれば、隣近所のよしみで敵に知らされてしまう可能性があった。

 だが幸いにして、調べたい屋敷の周辺には町屋が多かった。

 下級御家人の屋敷は、武家町ではなく町人町に屋敷を与えられることが多い。

 強請五人組が入った屋敷も、芝居町に近い岩本町の横、松下町一丁目代地に隣接していたので、岩本町・松下町・岩井町の表店で買い物をして情報を集めた。

 そしてその御家人屋敷が、永井忠左衛門の屋敷だと聞き出したのだ。

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