第30話蛇の弥五郎24

「さて、蛇の弥五郎。

 素直に正体を現し、妖狸が人に化けていた事を白状しろ。

 正直に白状すれば、罪一等を減じ、佐渡島の水汲み人足として島流しにしてやる。

 だが嘘偽りを申したら、人の盗賊としてこの場で斬り殺す。

 お前が正体を現さなければ、俺も切腹させられる。

 そうなれば俺の手先が仇討ちをはじめて、日本中の狸を皆殺しにする。

 よくよく考えて返答しろ」


「与力の旦那。

 正直に話すのはいいですが、もっちょっと恩情をかけてくれませんかね。

 あっしらとしても、恨みを晴らしただけなんで」


 七右衛門はチラリと老中に視線を送った。

 勝手にこれ以上の減刑を与えるわけにはいかない。

 佐渡島の水汲み人足ならば、幕府の財政に寄与させるためと言い訳はできる。

 だが単なる島流しでは、蛇の弥五郎一味の罪には軽すぎるのだ。

 その場にいる老中以下は腰を抜かさんばかりに驚いていた。

 なんと言っても狸が人の言葉を話したのだから。


「恨みの内容を聞き出せ。

 正当な恨みで、仇討ちに相応しと言うのなら、恩赦も考えよう。

 だがそれはあくまで正当な恨みである場合だけだ」


「じゃあ言わせていただきますが、天子様は何度も肉食を禁止されています。

 にもかかわらず、未だに山に押し入り、我らの仲間を殺し、喰らっています。

 人が狸を殺し喰らうのなら、狸が人を殺して何が悪いのです。

 少なくても狸は人を喰っていませんよ」


 評定所が凍り付いた。

 狸が自分達の行いを堂々と認めたのだ。

 認めただけでなく、先に手を出したのは人間だと非難までしたのだ。

 身内を殺されたばかりか、喰われた。

 だから敵討ちだと言われれば、心に衝撃を受けていた老中達は直ぐに反論できなかった。


「それは間違っているぞ、弥五郎。

 確かに古の天子様は度々禁令を出されている。

 だがそれは稲作に影響が出るから、一時的に禁令を出されただけだ。

 それも、特定の獣だけを、特定の期間、特定の狩猟法を獲るのを禁止されたのだ。

 凶作以外の時期は禁令など出ていない」


「何だと!

 嘘を言ううんじゃない!」


「嘘ではない。

 時間をくれるのなら、古い記録書を見せてやろう。

 だがその前に、人の姿に成れる事を証明してもらおう。

 そして自分が蛇の弥五郎であると認めてもらおう」


「嫌だ!

 その古い記録とやらを見せてもらうまでは、絶対に認めん」


 七右衛門は再び老中に視線を送った。

 勝手に決める訳にはいかないので、老中の許可をもらおうとしたのだ。

 老中も返事に困っていた。

 狸が人語を話し、会話した以上、七右衛門の主張は正しいのは分かった。

 だがどう裁きを下していいのか、全く判断できなかったのだ。

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