第29話蛇の弥五郎23
七右衛門と源四郎の捕り物は、僅かな混乱ですんだ。
二人が先頭に立って妖狸と戦ったからだ。
王入道や鬼に怯むことなく立ち向かった。
手先の者達もそれに続いた。
王入道や鬼も、刃引きの刀や十手で叩き伏せられると、元の妖狸の戻った。
七右衛門と源四郎は厳重に縄で縛った。
だが問題は七右衛門と源四郎がいない三組だった。
王入道や鬼の姿に驚き、腰を抜かしたばかりか、失禁脱糞する者までいたのだ。
とてもではないが、捕縛などできる状況ではなかった。
騎乗していた二騎の与力は、驚き棹立ちになった馬から落馬して重傷を負った。
歴戦の火付け盗賊改め方長官だけが、何とか馬を宥めて落馬を逃れた。
だがその混乱を突いて、一部の妖狸は捕縛網を突破した。
七右衛門の手先は心構えができており、混乱する与力同心や奉行所中間に邪魔されながらも、何とか数頭の妖狸を捕縛した。
人の姿形ならば捕縛し易いのだが、元の妖狸に戻られると、捕縛するのが難しいのだ。
殺し事が許可されていたのなら、まだ簡単だった。
だが殺してしまったら、単に狸を殺して蛇の弥五郎と偽ったと言われるだけだ。
普通に考えれば、蛇の弥五郎一味を捕まえる事ができず、狸を捕まえて濡れ衣を着せたとか、手柄をでっちあげたと言われるだけだ。
何としても生け捕りにして、幕閣や町民の前で人に化けさせなければならなかった。
結局、七右衛門の組が蛇の弥五郎を含む二十数頭の妖狸全てを捕縛した。
源四郎が、副頭目を含める二十数頭を捕縛した。
他の三組は、七右衛門の手先が数頭を捕縛するも、六十数頭を逃してしまった。
七右衛門の手先が奮戦し、王入道や鬼が狸に変化し、捕縛網から逃げ出すのを見た火付け盗賊改め方長官と与力同心は、今更ながら七右衛門の話を思い出した。
だが、今更後悔しても始まらない。
決して取り返しのつかない大きな失態であった!
嘘の報告をして、七右衛門と源四郎を陥れる事も一瞬考えた。
だが諦めた。
今の江戸で二人を陥れるのは不可能だった。
「七右衛門。
正直に言って、そちの言う事は荒唐無稽で信じられん。
だが今までの功績を考えれば、嘘偽りと決めつける訳にもいかん。
よってこのように、特別に評定所に余と三奉行が集まって審議することになった。
町方の事件ゆえ、留役に代わって取り調べ、全てを明らかにせよ」
七右衛門は少々緊張していた。
本来ならば、町奉行所で自分が取り調べ、町奉行に採決してもらえば済む事件だ。
だが、捕らたのが人間に化けた妖狸で、今は狸の姿なのだ。
幕閣も町奉行も扱いに困り果てた。
そこで、担当老中と三奉行だけでなく、全老中と全若年寄までが検分の上で、全てを明らかにしなければいけなくなった!
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