第28話蛇の弥五郎22

 七右衛門は文の提案を受け入れた。

 夜警に投入している手先を、昼の仕事に就けた方がいいと判断したのだ。

 振売は無理でも、渡り中間なら務まる者が多い。

 町火消人足改の与力同心を通して、町火消にする事も可能だ。

 町会所掛の与力同心を通して、番所の番太にする事も可能だ。


「さて、奴らのねぐらは分かっているの?」


「はい。

 多くは人間に化けたまま江戸の町に溶け込んでおります。

 一部化けるのが苦手な奴は、化けるのが上手い奴が手に入れた家で、狸の姿で暮らしております」


 文は妖狐を使って妖狸の隠れ家を探し当てていた。

 七右衛門がその気になれば、何時でも踏み込めるようになっていた。

 だが問題もあった。

 妖狸が化身を解けば、元の狸に戻ってしまうと言う事だ。

 とてもではないが、捕縛して取り調べるのは不可能だった。


 だがその事は、七右衛門に伝えてあった。

 どういう事にすれば、妖狸の事を信じてもらえるのか?

 万が一捕り物の時に蛇の弥五郎一味が狸の姿に戻っても、捕り方を動揺させないで済むのか?

 七右衛門は思案して決断した。


「源四郎殿。

 どうやら蛇の弥五郎一味は狐狸の類のようだ」


「なんだって?

 本気で言っているのか?

 七右衛門殿?」


 七右衛門はほとんど全てを正直に話す事にした。

 文が神使である事以外は全てだ。

 七右衛門は町奉行に話し、捕り方に盗賊が狸に戻った時に動揺しないようにした。

 源四郎は火付け盗賊改め方長官に話し、捕り方が動揺しないようにした。

 二軒の隠れ家はそれでいいが、問題は隠れ家が五件もある事だった。


 そこで七右衛門は捕り方を五組に分ける事にした。

 七右衛門と源四郎が二カ所に出張るのは当然だが、他の三組には南町奉行与力二騎と火付け盗賊改め方長官直々に出張ってもらう事にした。

 南町奉行所与力は、風烈廻り昼夜廻り与力二騎に任された。

 五組は粛々と準備を整え、一気にねぐらを襲撃した。


 だが、その捕り物は普通ではなかった。

 蛇の弥五郎一味が逃亡しないように、巻き込まれる町民がいないように、蟻の這い出る間もないように辻々を捕り方でかため、ねぐらには腕利きの同心と手先で踏み込んだのだ。


 捕り方の多くは、七右衛門と源四郎の言う事を信じていなかった。

 同役の与力はもちろん、配下の同心も奉行・長官も信じていなかった。

 だが、神使に魅了された手先だけが、咄嗟の時の覚悟ができていた。

 だからねぐらに押し入ったはいいが、王入道や鬼に化けた妖狸の襲われた。

 捕り方だけでなく、同心まで腰を抜かしてしまった。

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