第27話蛇の弥五郎21
「七右衛門殿。
蛇の弥五郎を捕らえますか?」
「このまま大人しくしているのなら、無理に捕まえる必要はありません。
ですがまた人を殺すのなら、捕まえる必要があります」
神使の文が七右衛門に蛇の弥五郎を捕まえる事を勧めた。
今まで放置していたのに、急に捕縛を勧めたのには理由があった。
火付け盗賊改め方が六組体制から二組体制に戻ったからだ。
今迄多くの火付け盗賊改め方の同心が夜警していたのが、三分の一になった。
その減少分を、七右衛門と源四郎の手先が補っていたのだ。
それまでは、七右衛門と源四郎の手先は昼に振売をして生活費を稼いでいた。
それが一晩中江戸の町を巡回するとなれば、昼に寝ることになる。
当然生活費に困ることになるので、七右衛門と源四郎が生活費を援助する。
六百人の手先の生活費は、一人一ケ月一両で、総額六百必要になる。
年間では七千二百両が必要で、閏年では七千八百両となる。
年が明けて三ヶ月、七右衛門と源四郎の経済的負担が大きかったからだ。
座していれば、七右衛門と源四郎が形見分けしてもらった一万両も、あっという間になくなってしまう。
文は一日でも早く蛇の弥五郎一味を捕縛して、手先達が振売を再開できるようにしたいと思ったのだ。
だが七右衛門はそれほど心配していなかった。
七右衛門と源四郎に届けられる金銭は、一人年間三千両を超えていた。
いや、中間部屋を摘発して以来大幅に増えたので、五千両を超えると思われる。
その後は寺社で開帳されていた賭場を摘発したので、裕福な寺社からも付け届けが贈られてくるようになっていた。
更には表向き六百人の手先だが、実際は千人を超えていた。
振売として商売上手な者や、職人としての技術のある者は、夜警をさせずに、そのまま仕事に精を出させ、足を洗わせようとしていた。
今夜警に出ている六百人は、商才も職人技もない、正業に就けない者が多く、与えられる仕事に限りがあった。
七右衛門は、盗賊の頭格や兄貴格を取り立てて、口入屋を始めさせる予定だった。
大名や旗本は、参勤交代や公式出仕の時に臨時で中間が必要になる時がある。
天下普請も埋め立てや河川の護岸工事でも人を必要としている。
船荷を蔵屋敷に運ぶための港湾荷役も人手が必要だ。
どうしても正業に就けない者達を、そこに送り込む予定だった。
だが文は稲荷神の神使だ。
加護すべき七右衛門の勝手向きが、例え一ケ月であろうと、赤字なのを見過ごせなかった。
そこで急いで蛇の弥五郎一味を捕縛し、夜警に投入している手先を、一日でも早く賃金の出る仕事に就けたかったのだ。
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