第26話蛇の弥五郎20
七右衛門が二度目の冤罪事件を解決した当初は、瓦版のよって七右衛門が賞賛され、火付け盗賊改め方や幕閣が激しく非難された。
だが、河内屋が瓦版に手をまわしたので、火付け盗賊改め方や幕閣への非難は直ぐに下火となった。
それよりも、七右衛門の従弟が火付け盗賊改め方与力に召し抱えられ、出仕早々に大名家の中間部屋で開帳されていた賭場を摘発し、お手柄を立てた事が大々的に喧伝された。
幕府が掲げる高札でも、町奉行所と火付け盗賊改め方が協力して、江戸の治安を守る事を周知させようとしていた。
幕閣も本当は大名家を取り締まりたくなかった。
だが、七右衛門の働きで、もう江戸にめぼしい盗賊がいなかった。
だから江戸で一番悪質な口入屋が、自分が大名家に送り込んだ中間に、下屋敷中間部屋で開帳させている賭場を摘発したのだ。
その外様大名家は、坪内家に付け届けせず、他の与力家と懇意にしていたのだ。
だから摘発が行われた翌日から、坪内家に付け届けしていなかった大名家から、急いで挨拶が届いた。
当然従弟の源四郎が立てた井波家にも全大名家から挨拶があり、付け届けが送られてきた。
「七右衛門殿。
受け取ってもいいのだろうか?」
「源四郎殿は何も気にしなくていい。
どうするべきかは手代が知っている。
源四郎殿は剣術一筋なのだろう?
御役目の事も、勝手向きのことも、爺様が送ってくれた家臣に任せればいい」
源四郎は河内屋一門では異端の極みだった。
商売を嫌い、ただひたすら剣に打ちこむ剣術狂いだった。
だがそれでも、河内屋善兵衛には可愛い孫の1人だ。
商売に興味がなく商才がないからこそ、安泰に暮らせるようにしてやろうとした。
好きな剣術で身を立てられるようにしてやりたかったのだ。
そこで考えたのが、徒士株の購入だった。
付け届けがあるのは町奉行所の与力株だったが、幕府内で出世を考えるのなら、町奉行所内だけしか出世の道がない与力株より、徒士株の方が先々愉しみだと、善兵衛は考えたのだ。
だがそこに今回の騒動である。
御先手組の与力なら、町奉行所の与力と違って幕府内で成り上がることも可能だ。
本当ならば初手柄以降も、源四郎には大名家旗本家の中間部屋の摘発をさせたかったが、六百両を超える付け届けが送られてきてはそうもいかない。
幕閣からも手心を加えてやれと命令が来た。
そこで目付や大目付と組んで、大名屋敷や旗本屋敷で開帳されている賭場を摘発し、表に出さずに内々で中間や口入屋を捕縛し、神使の力で手先に加えたのだ。
だが江戸の町民に眼に見える形の手柄が必要だった。
そこで町奉行所・火付け盗賊改め方・寺社奉行所が協力して、寺で開帳されていた賭場を次々と取り締まった。
悪質な僧侶や神官を捕縛する事で、町人の鬱憤を晴らさせ、火付け盗賊改め方と幕閣の威信を取り戻した。
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