第25話蛇の弥五郎19
一:七右衛門家と源四郎家を譜代家とする
二:七右衛門家の子弟を源四郎家の養子とし、学問吟味と筆算吟味を受けられる。
三:吟味に合格したら、七右衛門家子弟あろうと御家人扱いとして役職に付ける。
四:子弟が学問吟味と筆算吟味に合格したら、養子先を世話する。
五:源四郎家の養女を、旗本に嫁げるように世話する。
六:七右衛門家と源四郎家に旗本の娘を正室として世話する。
ほとんど口約束だった。
書面に残したのは、一つだけであった。
だが最初から守るつもりがなかったわけではなかった。
学問を蔑ろにする大身旗本は、筆算能力がなかった。
だが、勝手向きが苦しい幕府は、筆算に明るい者を必要としていたのだ。
もし源四郎家の子弟が筆算吟味に合格する事ができたら、支配勘定見習いとして十人扶持(五十俵)が与えられ、親子で出仕する事が可能だ。
正式に支配勘定に登用されれば、元の家禄が三十俵人扶持であろうと、百俵が与えられる。
能力があれば、百五十俵高旗本格の勘定に出世する事も、百五十俵高旗本格の代官に出世する事も可能だった。
勘定吟味役の支配下なら、百五十俵十人扶持(二百俵)旗本格の勘定吟味改役に出世する事も可能だった。
河内屋で厳しく学問を仕込まれたら、学問吟味と筆算吟味に合格するのは難しくないのだ。
布衣(六位相当)の役職に就任できれば、家禄が百俵に加増される内規があり、御家人は旗本になることができる。
条件は厳しいが、勘定吟味役や郡代になる事ができれば達成できる。
一代で布衣は難しくても、三代続けて旗本役を務めれば旗本になる事ができる。
河内屋で厳しく学問を仕込まれたら、三代続けて旗本格になるのは難しくない。
家禄だけで言えば、遠国奉行になれば二百俵、勘定奉行や町奉行になれば五百石、御側衆にまでなる事ができれば、就任時に二千石に加増される。
稀な機会ではあるが、永年勤労や功績を挙げて加増される場合もある。
口約束とは言え、幕閣全員が手柄を覚えてくれていたら、旗本の道も開けている。
学問吟味と筆算吟味に合格できれば、幕閣も批判を恐れず登用可能だ。
まして旗本から正室を迎え、正室との間に生まれた子に厳しく学問と筆算を教え、正室実家の部屋住みとして筆算吟味に合格させる事ができたら、百俵高として新たに家を興す事ができた。
幕閣が新たな家を興すのを嫌っても、喉から手が出るくらい役職を欲している、小普請組している多くの小身旗本家が、婿に迎えようと争うだろう。
若くして筆算吟味に合格する者は、勘定組頭や評定所留役はもちろん、勘定吟味役や勘定奉行にまで出世する事が期待できるからだ。
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