第14話蛇の弥五郎8

 南町奉行所では、新たに潜伏先の分かった盗賊達を召捕るべく、着々と準備を整えていた。

 その責任者は、夜の友吉一味を捕らえ、盗賊仲間の潜伏先を自白させた七右衛門となった。

 古参の与力同心は危惧を表明したが、御奉行が押し切った。


 だが補助する古参同心は十分に配された。

 通常の捕り物出役には、当番方から与力一騎と同心三名が出るのだが、平同心ではなく年寄同心三名が補佐としてつけられた。

 当然三見廻り同心と捕り方が多数動員され、盗賊が隠れ家から逃げられないように、完全に封じ込めた。


 毎日のように、七右衛門は次々と盗賊を捕縛した。

 新たに捕縛した盗賊達も自白に追い込み、新たな盗賊の隠れ家を手に入れた。

 市之丞に自白させられた盗賊は、七右衛門の手先となった。

 その活躍は幕閣にも伝えられ、無給の無足見習から、年銀十枚の見習いを飛ばし、年二十両の手当てがもらえる本勤並に大抜擢された。


 市之丞の神使としての能力なのか、自白した盗賊達は七右衛門に忠誠を誓った。

 与力坪内七右衛門の御用聞きとなり、年一分の給金が支払われた。

 しかし江戸で暮らすには年十両は必要なのだ。

 一分ではとても暮らしていけない。

 だから普段は盗賊時代に仮にしていた職業や、振売りをしながら江戸市中の情報を集めた。


 本来振売の免許を幕府からもらえるのは、五十歳以上の高齢者か十五歳以下の若年者、もしくは身体が不自由な物に限られていた。

 だが町奉行所の手先になる者として、特別に免許が与えられた。

 彼らは足に任せて江戸中を歩き回り、元盗賊の経験と知識を生かし、見知った盗賊を探し回った。


 彼らは食品ならば油揚げ・鮮魚・干し魚・貝の剥き身・豆腐・醤油・七味唐辛子・すし・甘酒・松茸・ぜんざい・汁粉・白玉団子・納豆・海苔・ゆで卵等を扱った。

 食品以外なら、箒・花・風鈴・銅器・もぐさ・暦・筆墨・樽・桶・焚付け用の木くず・笊・蚊帳・草履・蓑笠・植木等を扱った。

 商売の上手な者は儲かる物を売り、苦手な者は腐らない物を売った。


 彼らには本来は同心が御用聞きに与える身分証明書「手形」が、与力の七右衛門から与えられていた。

 建前上は、坪内家の中間や小者扱いであり、目溢しされた元盗賊に対する扱いとしては破格の待遇であった。

 だから彼らは身を粉にして働いた。


 彼らは七百文程度で売り物を仕入れ、足に任せて売り歩き、一日で五百文の利益を上げた。

 雨で働けない日があっても、十分女房子供を養える収入となった。

 ましてここに、奉行所からの手当が一分(千文)と七右衛門が与える報酬があるのだ。


 

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