第15話蛇の弥五郎9
七右衛門が自白した盗賊を手先にするまでは、御用聞きは親分子分を合わせても百人程度しかいなかった。
それも元犯罪者が多く、自分が従う三見回り同心の担当地区の商家を脅し、不当な利を得る者が多かった。
だがここに、一切悪事を働かない七右衛門の手先が現れた。
彼らは既存の御用聞きが全く手柄を立てないのに比べて、毎日のように江戸に潜む盗賊を見つけてくる。
だがそれも当然だろう。
彼らはつい昨日まで現役の盗賊だったのだ。
しかも数が多く、二百人以上の元盗賊が滅私奉公しているのだ。
だが奉行所としても、彼らを全て雇うのが徐々に難しくなってきた。
わずか年一分とは言え、限られた奉行所の予算から捻出しなくてはならない。
二百人だと五十両が必要になる。
振売を始めるための元手に千文も必要だし、処刑された事にして、新たな生活を始めるためには、長屋を借り布団を買うなどの初期費用が必要だった。
七右衛門はその全てを負担するようになった。
蛇の弥五郎一味を憎む幕閣は、七右衛門の活躍を耳にしていた。
逮捕した盗賊達を手先にする許可を与えたのも彼らだ。
だからこそ、七右衛門の経済的負担も知っていた。
彼らは七右衛門が河内屋善兵衛の孫だと言う事も、当然知っていた。
御大尽である事も知っていた。
だが、だからと言って、褒美を与えないようなケチではなかった。
少なくとも活躍している間は、正当な評価を与えて、何としてでも蛇の弥五郎一味を捕えさせようと考えていた。
だが、商人から無足見習与力になって数カ月の七右衛門を、これ以上出世させるのは難しい。
養父を隠居させて当主にしたとしても、古参の与力同心と軋轢があるのは明白だ。
だから今まで閑職に追いやられていた養父を出世させるように奉行に命じた。
養父は無能でも、実際に仕事をするのは七右衛門なのだ。
いや、この事に関しては、幕閣も多少猜疑の眼で見ていた。
確かに有能であるのは間違いないであろうが、実家の支援が大きいと考えていた。
日本一の商家の支援がなければ、二百人もの手先を雇えるはずがない。
海千山千の元盗賊を心服させ、悪事をさせずに働かせるなど、よほど老練で強かな者でなければ無理だ。
河内屋善兵衛が直接助けているかどうかは別にしても、有能な番頭や手代が側について手助けしているはずだ。
少なくとも、河内屋から坪内家に送り込まれた若党と中間は凄腕剣客だった。
家の勝手向きを助ける番頭や手代が送り込まれていないはずがない。
当主坪内平八郎を役得の多い役目に付ければ、二百や三百の手先を養う事など簡単だろうと幕閣は考えたのだ。
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