第11話蛇の弥五郎5

 岩吉の尋問は鬼気迫るものがあった。

 夜の友吉一味の者は、三人続けて同じ事を話した。

 嘘偽りを話しているとは思えなかった。

 これ以上時間をかけると、盗人宿に残ってる者が逃げるかもしれない。

 よい頃合に、番屋に見習い同心と供の者が入って来た。


 まだ十六の見習い同心では、荒事などできない。

 夜の巡回に出すのも不安がある。

 だが荒事になれた奉行所の御供中間を、護衛兼目付に付ければ話は別だ。

 見習い同心一人に御供中間一人、さらに御用聞き三人をつけて巡回させていた。

 その内の一組が偶然番屋に入ってきたのだ。


 その同心達に夜の友吉一味十三人を見張らせた。

 七右衛門達は一味の者が自白した盗人宿、武蔵屋と言う旅籠を急襲した。

 岩吉が鋏箱持ちと合羽篭持ちを率いて裏口から入る。

 もう一人の供頭格、若党杉山三蔵が馬口取り一人と草履取りを率いて表から入る。

 七右衛門は馬に乗って大通りに陣取り、もう一人の馬口取りと槍持ちを率いて逃亡を防ぐ。


「南町奉行所与力、坪内七右衛門様の御用だ。

 直ぐにここを開けろ。

 開けないと打ち破るぞ!」


「捕り方だ!

 逃げろ!」


 盗人宿に残っていた者達が、急いで裏口から逃げようとした。


 「三蔵は裏口の援護に回れ。

  表は我々が塞ぐ」


 七右衛門は直ぐに状況を判断し、三蔵達を裏口の向かわせた。

 旅籠の裏口は裏長屋の方にある。

 狭い裏長屋に馬で入る事はできない。

 徒士で向かう方が有利だ。


 万が一屋根伝いに逃げるようなら、馬で表通りを追いかけた方が早い。

 槍を持った騎馬が相手では、徒歩の盗人に勝ち目などない。

 槍持ちと口取りの二人が加われば、十人程度までなら十分対処可能だ。

 万が一裏口を突破されることがあっても、呼子で知らせが入る。

 それから騎馬で追っても十分間に合う。


 七右衛門はそこまで考えて三蔵達を裏口の向かわせたのだ。

 だがそんな心配は不要だった。

 盗人宿に残っていたのは五人だけだった。

 しかも引退した老齢の盗賊と、まだ未熟な少年四人だけだった。

 老人は旅籠の主人で、少年は旅籠の丁稚だった。


 そんな五人に剣客六人の守りを突破できるはずもなかった。

 瞬く間に叩き伏せられた。

 相手が老人と少年であろうと、剣客達は手加減などしなかった。

 衝撃で死なないように、木刀や十手で打ち据える場所は気を付けていたが、力は十分込められていた。


 五人を捕縛した後で、まだ隠れ潜んでいる盗賊がいないか、旅籠の中を虱潰しに調べた。

 泊り客も全員番所に連れて行き、泊り客に偽装した一味の者を逃さないように気を付けていた。

 後日分かった事だが、老人と少年以外は普通の客だった。


「七右衛門の家臣」

若党   :曽我岩吉

     :杉山三蔵

馬口取り :木八(中山木八)

     :吉助(後藤吉助)

槍持ち  :伊之助(森伊之助)

草履取り :熊蔵(矢口熊蔵)

鋏箱持ち :伊三郎(滝伊三郎)

合羽篭持ち:栄五郎(前栄五郎)

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