第10話蛇の弥五郎4

「縄を打て。

 このような場所に潜んでいると言う事は、この町内に盗人宿があるかもしれない。

 番屋に運び込んで厳しく取り調べる。

 ひとまず荷物は番屋に預けよう」


 七右衛門はテキパキと指示を出した。

 鋏箱と合羽篭は、急な雨に降られた場合や、返り血を受けた場合に、七右衛門が着替えるための準備だ。

 だが今必要なモノではない。

 これから盗賊達を連れて行く番屋に預けても何の問題もない。


 そもそも意識を失った盗賊十三人を移動させるのに、主従九人だけでは不足だ。

 だからと言って呼ぶ子を吹いて人を集めれば、何処かに隙を作ってしまう。

 最近の傾向から、複数の盗賊が同時に活動している可能性が高い。

 しかも今捕らえた盗賊は、余りに手応えがなさ過ぎた。

 まだ蛇の弥五郎一味が江戸のどこかに潜んでいる可能性が高いのだ。


 中間に身をやつした剣客が、急所を押さえて縄を打ったのだ。

 縄抜けの達人でもない限り、縛めから抜け出す事は不可能だった。

 それほど厳重に縛めてから、槍持ちと一人の口取り以外が、盗賊を両肩に担いだ。

 六人の供が二人づつ盗賊を担いだので、残りは一人だ。

 その一人は番太が背負って番屋まで運んだ。


「一人づつ気合を入れて起こしてくれ。

 奉行所の取り調べには限界がある。

 厳しい拷問は許されていない。

 奉行所の規則を破らない方法で、こいつらのに盗人宿を白状させられるか?」


「御任せ下さい」


 七右衛門の無茶振りに、供頭格の若党曽我岩吉が自信満々に答えた。

 岩吉は一人の盗賊に気合を入れて目覚めさせた。

 盗賊が徐々に覚醒するのを待って、ゆっくりと脅した。


「さて、蛇の弥五郎一味よ。

 よくも罪のない人達を惨殺してくれたな。

 その恨み、タダで死ねると思うなよ。

 最初に爪を一枚づつ剥ぎ、それが終った指を一本づつ潰していく。

 舌が噛めないように、手ぬぐいを噛ませてやろう」


「待て。

 待って下さい。

 俺は蛇の弥五郎一味じゃない。

 夜の友吉一味だ」


「口で何とでも言える。

 言い逃れをしようとは思えないくらい、厳しく責めてやろう」


 岩吉は恐怖を煽るように、ゆっくりと刀を抜いた。

 切っ先を徐々に盗賊の鼻面に近づける。

 肌が切れるか切れないかの間近まで近づけ、今度は左横に切っ先をずらす。

 ずらした切っ先を、そろりと目玉に向けて、じわじわと近づける。

 盗賊の顔に、いや、全身から脂汗が流れ出した。


「違うんだ!

 本当に蛇の弥五郎一味じゃないんだ!

 頼む!

 信じてくれ!」


「だったらお前たちの盗人宿を吐け。

 吐いてそれが本当だった信じてやる。

 だが次の奴と言う事が違ったら、産まれてきた事を後悔するほどの拷問にかけるぞ!」

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