第5話
「お兄さん誰か探してるの?」
三人組の女子大生が、意を決してという風に話しかける。その頬は微かに赤く、叡士郎は心の内でうんざりとするも、これはいい機会だと笑みを浮かべた。
「ああ、女の子を探してるんだ。前に落とし物を拾ったんだけど、その時は見失っちゃってね」
一瞬真顔になった彼女たち。しまった、苦しかったかと心中で舌打ちする。しかしそれも杞憂だった様だ。すぐに「どんな女の子ー? ここらで見たなら見かけたことあるかも」と試す様な視線を這わせられた。彼女たちも俺という獲物を逃したくないわけだ。
「こんぐらいの身長で、髪と目が真っ黒で、ちょうどそこで見たんだよ」
少女の身長を思い出しながら、当たりをつけて手で指し示す。そうしてから、あの少女との邂逅を果たした路地裏を指した。
「あっ、もしかしてゴスロリ着てなかった?」
真っ黒のやつ!と嬉しそうに続けるのに、思わずこれは運がいいぞと内心ほくそ笑む。あの時は暗がりでよく見えなかった服装の特徴が手に入った叡士郎は幸先の良さににやける口元を押さえた。こいつらにとって俺は「落とし物を届けてあげようとする優しい人」なのだ。決して「やっと出会えた人生を捧げたいと思える人物を血眼で探す人」ではないのだと自分に言い聞かせて。
「あー、どうだったかな。咄嗟のことであんまり覚えてないや」
そっかー、としゅんとした様子を見せる彼女。もう用無しとなった女に、「でもありがとう」と言って歩き出す。
──次に向かうは原宿だ。
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