鳥ー続編

彼は、会社から少し離れた喫茶店の、奥の席に私を連れてくると、言った。

「僕は昔、ピットという鳥をかっていたんだ。ピットは、僕のペットであり、友達でありパートナーでも あった。」「?」「つまり、その。ゴメン。上手く言えないけど、君にピットのような存在になってほしいんだ。」「?」な、何言ってるの? この人? 鳥になって欲しい?なんか変だけど。

でもエリート営業マンが、必死で言葉を繋いでる。何だか可笑しいような、うれしいような気分になる。「け、け、結婚して欲しいんだ」結婚?!「け、けっ、はい、ええー。」思わず大きな声がでた。周りにいた、数人の客が思わず振り向いた。」それでも、さっきまでの地獄に落ちた気分が、天使が迎えにやってきた気分に180度変わった。

「も、も、もちろん。こんな私で良ければ」この際、鳥に似てようがかまわない。のっかかろう。この天使様に。

それからは、夢見心地で時が経った。


そして、彼の親から受け継いだ1軒家での夫婦生活が、始まろうとしたその時に「ここが、ピットちゃんの部屋にしたよ」

そう、彼はあれから私のことをそう呼ぶようになった。そういいながら部屋を開けると6畳間ぐらいの広さだろうか。そこには、パイプベッドと何もない空間、奥にはカーテンが下がっていた。半透明の窓があり、明かりが差し込んでいた。えっ、なんなのこの部屋。「まあ、くつろいでいて。荷物は、僕が厳選してもってくるから」と言うと、外から鍵をかけて行ってしまった。

えっ、閉じ込められた! 急に恐怖が、襲いかかった。まっ、待ってと言った声は、かき消されていた



おかれた現状をやっと理解した時、ドアを思い切り叩いた。そのうち、手が痛くなり皮がむけはじめ血が滲みでた頃、窓からの明かりが薄暗くなり差し込んでいた。

絶望的になって床に座りこんでいた時、彼が鍵を開け入って来た。

「この部屋、気にいってくれた?」

「正気なの?私に、ここでこれからずっと暮らせというの?」

「君は、僕のプロポーズ嬉しそうに受けたじゃないか」そう、でもこんな こんなこと、想像出来るわけない。

「僕は、君を愛してる。だから、君を手放さない。まあ、いいさ。そのうちここの暮らしにもなれるだろう。」


そして、それからは果てしない孤独と、後悔とともに日々が過ぎて行った。時計と電気がない部屋で、窓明かりだけが一日の移りかわりを教えてくれていた。

彼 健人は平日には朝食と夕食を持ち、現れる。休みの日は、半日は一緒に過ごす。この、部屋で。軋むベッドで交わる。そして、カーテンで仕切られただけの奥の狭いシャワー室で、身体を洗い流す。私は、考える。こういう、生活を幸せというのか?愛されてるのだろうか。もう考えることさえ、疲れて来たある時、聞き覚えのある音が、なった。

えっ、どこ。どこ。バックの中の何枚かの服の中で携帯電話が、なっていた。「も、もしもし」

「もしもしし、私好美よー。元気してる?会社、辞めてから気になってたんだけど。社内一のモテめん男と、結婚したから、しばらく遠慮してたんだよ」先輩の好美からだった。

「よ、好美先輩、せんぱーい。」懐かしい声。救世主だと、思った。

「た、助けて うっうっ」ち、ちゃんと言わなきゃと、思えば思うほど込み上げる嗚咽が止まらなかった。

「ど、どうしたの。?」

「た、助けて」絞り出した声。次の言葉を、言おうとした時。つー。つ・・・つつ。

「もしもし もしもし」切れた、充電切れだ。ああ、最後の望みが失われた。

いつまでも、未練がましく携帯をもっていたが 、もう奇跡はおこらなかった。

彼が、置いてった荷物。あれから、ほとんど手つかずだった。そこに、紛れていたんだろう。

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