3話 紫鳳のぞか

犬に自己紹介するのか。

たまに居るよな、そんな人間も。

まあ、とにかく助かった。


「ありがとな」

とりあえず、お礼する。


けど、まあ、わかんないよな。


「どういたしまして」

と、のぞかは言葉を返す。


わかるのか?と一瞬思うけど、

人間はこれが普通だったんだ。

少なくとも、俺が知る人間達は。


―――――――――


俺は1人目の主人を思い出していた。


 当時は本気で思ってた。

ご主人様は犬の言葉が解るんだって。

通じ合ってるんだって。

世間知らずだったよな。

 

 一家の主(ご主人)は休日には、

息子と一緒に公園に連れってってくれた。

俺も嬉しくて走り回った。


 母親も「お手」「伏せ」とか一緒に遊んだ。すごく喜んでくれた。

このまま楽しく、いつまでも家族で暮らせるんだろうなって、信じてた。


 そんなある日、新しい家族が出来た。

赤ちゃんだ。

 俺もすごくうれしかった。

だって同じ家族だもんな。


 少なくとも俺はそう信じてた。

けど、ある日。


「子供育てるのにお金かかるな」


「お金が足りないわ」


「どこか削らないとな」


それが、その家で聞いた最後の会話だった。

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