第4話 悲劇

静かな部屋。

静かな建物。

突如として銃声が鳴り響く。

1発どころじゃない。

2発、3発…

無慈悲な弾丸は数十発撃たれた。


「…ハク…君…」

『ハルさん!?』

「どうやら…彼らは君を抹消したいみたいだね…」

『どうして!?』

「逃げたまえ…あと10分もすればここは破壊される…」

『でも…!』

「いいから逃げるんだ!…そしてここを忘れるんだ」

『私は…!』

「君を創ってしまって済まなかった。この罪は償うことは出来ない。さあ、行け。振り返ってくれるなよ」

『…っ!』

「…君は、私の娘だ。親として…これくらいはしてやらないと、な」

「博士、実験体は何処へ行った」

「君達が何を言っているのか分からないね」

「とぼけないでください」

「少なくとも、ここにはいない。覗いてみるかな?」

ゴーグルとカナル(イヤホンのようなもの)を差し出す。

兵士が取ろうとした瞬間…

取り上げる。

「何をしている」

「君たちに彼女を見る資格はない」

ゴーグルを割る。

カナルを壊す。

「博士!」

「なんとでも言うがいい」

彼女が幸せを見つけられることを願っている。

「君達も、私と共に来てもらおう」

建物を吹き飛ばす。

響く爆音。

それはハクの元まで届いた。

『ハルさぁん!!』

『ハク…』

所詮見えないただの

ただ、感情があり、意思があるだけの。


『ハク。向こうに人影が見える。あそこは確か…花畑だったかな?』

『人影?どうせ…私のことは見えない…』

『1人だけ、いたろ』

『……』

『あの人は盲目だった。目が見えない代わりに、私たちの声が聞けた』

『そう、だけど…』

『なら、こうも考えられないか?』

『?』

『耳が聞こえないなら、私たちの姿が見えるって』

『…』

『無理にとは言わない。静かに暮らしたいならそれでいいんだ…』

『…ううん。ありがとね、クウ』

『…すまん』


一人、森を歩く。

『…』

『ハク、どうしたんだ?』

『…生まれたばかりの時を思い出して。あそこに居たのは皆、私と同じだったんだなって』

『…かもな。だけど今どこで何をしてるかは分からない』

『…あ、人…』

『どうせ見えないだろ』

『…ねぇ、そこの人たち!』

クウと顔を見合わせる。

『『達?』』

『ねえねえ、もしかしてあの施設から来た人かな?』

『そうだけど…』

『ああ、良かった!ねね、出来れば私も連れてってくれないかなぁ?』

『それはいいんだけどよ、なんでアタシまで見えるんだ?』

『だって!私もあそこで作られたモノだからさ!』

『…そうだったのか』

『私はアキ!よろしくね!』

『私はハク』

『アタシはクウだ』

『私ね、博士から聞いたことがあるの!』

『何を?』

『私たちみたいな霊体を人間にする機械があるんだって!そうすれば普通の人にも見てもらえるし、聞いてもらえるの!』

『…ハク、行ってみる価値はあるかもな?』

『…そうだね。場所は分かるの?』

『それが…分からないの』

『そう…』

『で、でも!博士は研究所から近いって言ってたからすぐ見つかるよ!』

『…ホントだろうなぁ?』

『まあいいや。クウ、アキ。行こうよ』

これから、彼女達の短い旅が始まる。

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