第3話 事実

「私は君達に謝りたいことがある」

『謝りたいこと?』

「君を『創った』のは私達だ」

…創った?

「君に流れているのは人間の血ではない。空想の…夢物語の血だ」

『それはっ…どういう…!!』

「君は夢の被害者だ。私の部活は皆馬鹿だった。唯一止めた私の忠告すら無視してできたのは…君だった。彼らの代わりに謝ろう。済まなかった。君に会うためだけにこのゴーグルとカナルを作った。見えない君を見る為に。聞こえない声を聞く為に」

『そんな…そんな…あなたが…謝らなくても……』

涙が止まらない。

彼の行動にも。

そして今の私にも。

人間ひと」という存在を否定された。

そのショックは今までの何よりも心を抉った。

真っ二つに割れた気分だ。

『…今日は…帰ってください…』

「…そうさせてもらう」

彼の目には涙でぐしゃぐしゃになった彼女の姿が見えた。


『ハク…すまん。本当はアタシ知ってたんだ。でもアンタを傷つけたくなかった。ごめん』

『……だよ。クウは……ない』

嗚咽が混ざった声。

いいんだよ。クウは悪くない。

それがアタシにも刺さる。

あの人も悪くない。

悪いのはアタシらを創ったバカたちだ。

アタシ達も…あの人も…

みんな、被害者なんだ。


ハクは泣いた。

涙が枯れようと。

声が枯れようと。

ひたすら泣いた。

救いの手を求めた。

それは悪魔の手だった。

否。

悪魔の手を持った天使だった。

天使は謝った。

ハクに対して。

悪魔は別にいる。

天使は何も悪くない。

それはわかっている。

のに──

天使ばかり恨んでしまう。

『わたしはどうしたらいいの?』

『笑いな。泣いてばかりじゃ誰もよってこないぜ。悪魔も、天使も』

水たまりの上から声がする。

彼女はいつも近くにいた。

彼女の心は彼女がいちばんよく知っていた。

彼女は手を握る。

『もう大丈夫だぜ、ハク。アタシはいつまでもいるさ。いつまでも、な』

彼女の雨粒が彼女の肩に落ちた─

晴れることは無い。

だけどずっと降る雨はない。

『もしかしたらアタシ達は太陽なんて見れないかもしれない。だけどな、月なら──』

『『いつでも見られる』』

その確信が彼女達の心を癒していった。


「…失礼するよ」

『…』

「名前を名乗るを忘れていた。私は『ガク』。気軽に『ゴミ』だとか『クズ』とでもよんでくれ。それが然るべきだ」

『いいえ。わたしはガクさんと呼びます。あなたは何もしていないから──だからわたしはそう呼びます』

「君は…とても優しいのだな」


『で、どうする気だよ』

「手っ取り早いのはコレを量産する事だ…だがそれは無理だろう」

『でしょうね…』

「君はどの程度の規模で見て欲しいんだ?」

『そうですね…この建物の中なら…大丈夫ですか?』

「ちょっと待ってくれ……うむ。出来そうだ」

『本当ですか!?』

「私の全力を尽くそう」

『ああ…ありがとうございます!』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る