第9話 生贄の力で洗浄を?
「一応、臭いや汚れはとっておきましょうか」
「そーだな。どうせ光でバレると思うけど、一応な」
「――【
短縮詠唱によるカデュウの魔術が発動した。血も臭いも周囲に散らばっているゴブリンの残骸さえも。溶けるように消えていく。
「しかし、変わった魔術だな。この手の浄化魔術は普通は、【
「先生がこういうの好きなんですよ。利用しないと勿体ない、って言ってました」
「……命で命を洗う、ある意味正しい」
ソトやイスマが関心してるこの魔術は、先生が開発したものだ。
その特徴は、起動時のわずかな魔力しか消費しないという特筆すべきもの。
本来必要な魔力をどこで補っているのかというと、なんと死体を生贄に捧げて臭いや菌などを殺し、呪いの力で浄化するという特異な仕組みになっていた。
死体と言っても植物の死体でも構わないので、木材で浄化する事もできる。
ただ普通の浄化魔術と比べて、爽快感みたいなものはない。
そしてもちろん、アンデッドには通じない。
「形としては薪をくべてお風呂に入るのと同じですから」
「なんか、違う気がしますよ?」
「血で血を洗ってるような気分になるな」
とまあ、何よりもイメージが悪いのが最大の欠点かもしれない。アイスやソトの言い分はもっともである。
これが人間の死体だとすれば、一般感覚だと倫理の問題もあって色々怒られそうだ。
「だが、こういうのは好きだぞ。効率化、大いに結構!」
何やらこの術の仕組みが気に入ったソトが、カデュウの頭をなでて褒める。
カデュウが編み出したわけではないのだが、先生の効率的センスを褒められた事により、この人、良い人だ! などと考えてしまっている。
「それじゃ、いきましょ」
アイスの言葉に同意して、再び洞窟の中を進んでいく。
「……左を通って後ろに向かってる。3匹」
生体感知なのだろうか、イスマは左の壁からはじまりゆっくりと斜め後ろ側を指していた。
見えにくいところに通路がある、何も知らない冒険者なら奇襲されていそうだ。
「ほいほい、了解です。じゃあ、スパっとやっちゃいますか」
アイスは剣を構え、腰を落とし、ゴブリンが来るのを静かに待つ。
そして、横に一薙ぎ。2つの首が落ちる。一呼吸置いてから一歩踏み込んで上段から斜め右下に振り下ろすと、3匹目のゴブリンが死体になって転がった。
淀みない動きだ。ゆっくりとアイスの戦いぶりを見るのははじめてだったが、カデュウから見て、その剣閃はかなり早く、技量も高かった。
「さくさく進みましょうー」
ゴブリンを生贄に捧げてアイスを浄化する。そして前進を再開した。
ここまでは順調に進んでいる。
洞窟はさらに斜め下に続いていた。
「おっと、そこに罠があるな。足元の線を踏んだら、上から降ってくるやつだろう」
ソトの言葉通り、前方の足元に1本のロープが張られていた。
「迂回ルートはあるかな」
「ここまで一本道でしたけどね、さっきの奇襲ルート以外は」
ここまでの道を思い返していたカデュウ。
だが確かにアイスの言う通り、他の道らしきものは背後から襲う為のあの場所にしかなかった。
戻ったところであそこが奥に繋がっているとも限らないし、そもそもゴブリン達は別の入り口から出入りしている事も考えられる。
「面倒だな。踏まないように気を付けて進むか」
ロープを切って罠を解除してもいいのだが、それだと大きな音がして気付かれる。
より安全に行くなら撤退ルートという意味でも解除すべきだが、それよりは奇襲を選んだ。
そして全員がロープに引っかけないように慎重に進む。ここでうっかり踏むようなドジな子はいなかったので、無事通り越す事が出来た。
「……前に30匹いて4列に分かれてる。中央の奥に1匹、大きい」
イスマの言うその先から明かりが見えた。赤みを感じる事から、これは火であろう。ゴブリン達が何かをしているのだ。
しかし30匹は少し多い。それだけの数がいる空間という事は広いし、一度に相手をするとなると数の差で不利になる。
「よし、カデュウとアイス。2人で前衛に立って1人は入り口を押さえろ、1人は遊撃だ。他は入口の後ろから援護、これでどうだ」
「わかりました。それでは僕が遊撃に行きますよ。アイスは入口をお願い」
「私が遊撃でも良かったんですが。じゃあ入口防衛をします」
「……ん」
「あいよ、荷物持ちは気楽でいいぜ」
反対意見もなく作戦は決まった。ソトの案に従って準備を整え、カデュウの突入のタイミングが迫ってくる。
こういう時は緊張したり意気込んだりするものだが、カデュウが徹底的に叩きこまれた教えは、自然体。静かに。気付かせない事。
気配を絶ち、自然な歩みでゴブリン達が整列している背後、その左端にまわる。
ボス格の大きなゴブリンが何かを演説しており、それを他のゴブリンが整列し拝聴している所なのだろう。
洞窟の中でも一際大きな空間で、支えとなる何本かの岩の柱が立っていた。
ゴブリンがやったのか坑道を掘った人々が計算したのかはわからないが、そこは掘らずに残していたようだ。
静かに、始めよう。考えたと同時に、カデュウの行動が開始された。
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