第5話 ソトからはじめる師匠生活 金髪ロリパスタ
その金髪ロリの冒険者は、ニヤリと笑ったかと思うと、すぐさま話しかけてきた。
やばい。カデュウは直感した。
厄介そうな気がする、ホビックの姿がそう思わせているのだろうか。
ホビックとは種族名の事だ。
大昔にあったとある名称が略され、定着したものらしい。
その種族特性だが、人間の子供サイズでほんの少し耳が尖っている。
見た目通り非力で魔力もないのだが、素早く、心身共に強靭だと知られている。
「奇遇なので飲み物をおごってやろう。さ、リンゴジュースでもブドウジュースでもミルクでも好きなのを選ぶといい」
選択を迫られていて激しく聞きにくい状態だが、言わねばならなかった。
「あ、あの。よかったら、この辺りのおすすめのジュースを教えていただけませんか」
「ほほう。ならばリンゴジュースを選ぶが良い、この辺りはリンゴ農家が多い。それにブドウジュースはちょっと高いからな、うん」
若干後半の部分が気になるが、おすすめに従う事にしよう。
「それじゃあ、リンゴジュースにしてみます」
「よし、そこで待っていたまえ」
「あ、自分で買いますよ……?」
「いいからいいから」
やたら強引におごりたがっている点が気になるのだが……。
先輩と思われる冒険者の強い主張には逆らえず、おごられる事となった。
「……ん! これは美味しいですね。当たりですよ」
「そうだろうそうだろう」
「ありがとうございます、……えーと」
「自己紹介が遅れたな、私の名はソト・エルケノ。魔術師だ」
ソトと名乗ったホビックは、ドヤ顔を決めて胸を張っていた。
「僕はカデュウ・ヴァレディです」
「カデュウか。良い名前だ、うん。その初々しさは新人かな?」
「はい、さすがの観察眼ですね」
「そうだろうそうだろう。では指導者はいるか?」
「いたんですけど、はぐれてしまっていますね」
「おお、なんとかわいそうな。よよよ。というわけでここに
「……パーティの方はいらっしゃらないんですか?」
「……丁度、1人でね。運が良いよ君は! こんな天才魔術師が余っているとは!」
……怪しい、とてつもなく怪しい。
しかし指導者となれる冒険者が必要な事も事実だ。
状況の確認の為に、気分を落ち着けて周囲を見渡してみる。
……ヒソヒソこっちを見て何か言ってたり、腕を交差させて無言で訴えたり、酒場のマスターがこっちを見て首を振っているのだが。
「……あの」
「何!? ぜひ一緒に来て欲しい!? そうかそうか、リンゴジュースを奢った恩もあるし、いや違った縁がな」
カデュウは、もはや逃げられない立場にある事を悟った。
酒場のマスターが手で頭をかかえており、周囲の冒険者達は『あいつ可哀そうに……寄生されたぞ』などと囁き合っていた。
その囁きもソトが睨みつけると、目を逸らす始末だ。
周囲の反応が非常に非常に気になるが、こうなってしまっては仕方がない。
ひとまず受け入れるしかなかった。
この手の人物には逆らってはいけないと、直感様が告げていたのだ。
「それじゃあ、よろしく。私のような天才が居ればもう安心だ」
「……はい。……よろしくお願いします」
ソトの押しの強さにうなずく他なかった。
もう完全にそういう空気であった。
まあ、指導者は必要だったのだ。しかもパーティに不足している魔術師だ、空いているポジションが勝手に埋まったのだから良かったとカデュウは思う事にした。
気持ちの切り替えは大切である。
「安心したまえ、私が気に入ってる限りは離れないからな」
……いまさらっと寄生宣言をされた気がしたが、カデュウは考えない事にした。
冒険者色々、先輩も色々という事なのだろう。
転移する前に世話になった、最初の指導者ハクアとは大分毛色の違う人だった。
「ではカデュウの仲間が適性試験から戻ってきたらあいさつをしないとな」
「……よく知ってますね」
「ギルドに来た時から狙いを……いや、うん。……勘だ」
「今、狙いをって……」
「勘だ。見たところ指導者らしき者はいないな、と察した辺りが特に」
鋭い観察眼というべきか、広い視野というべきか、何故そんな事をチェックしていたのかとつっこむべきなのか。
少なくともソトという人が面白い人物なのは間違いないようだ。
それから少しして、奥で試験をしていた2人と、おまけの1人が返ってきた。
カデュウの座る席までやってきたアイス達が、ソトの姿を見て尋ねた。
「カデュウ、こちら様はどちら様なんです?」
「えーと、冒険者として活動する上で指導者が必要なんだけど、その指導者になってくれた人、かな」
「ソト・エルケノだ、よろしくな」
「……よろしく。イスマイリと言う。イスマと呼ばれる。大体そんな感じ」
「それはそれは、お世話になります。よろしくですよ、私はアイスです」
「なんだ知らぬ間に増えたのか。戦力不足だったしいいんじゃねえの。俺はシュバイニーだ」
つつがなく自己紹介と挨拶も終わった。
特に問題なく受け入れられたようで何よりだ。
カデュウが話を進めるべく口を開く。
「それで、試験は通ったかな」
「もちろんですよ。難関はイスマの言葉足らず感ですね。何言ってるのかわからない箇所に職員さんが悩んでました」
「それじゃあ、シュバイニーがついてった件は問題なかったの?」
「……召喚してるって言ったら、問題なかった」
「ああもう面倒臭いからいいや、とか言ってましたよあの職員さん」
アイスの言葉により裏での光景が目に浮かんできた。
職員の雑さにカデュウは驚きつつも感謝した。
冒険者適性に言葉足らずはダメだとか、変な男を召喚してはいけない、なんてないからなあ……。そんな風にも考えつつ。
ただ、召喚できるという事は、数少ない貴重な魔術師という事でもある。
冒険者ギルドとしては性格面で問題がなければ、是非受け入れたい人材なのだ。
「よし、術師のお前らは今からこのソト・エルケノを師と崇めるが良い」
いきなり何言ってるんだこの人。
とカデュウは思ったが、そういえば自称天才魔術師だと主張していた。
「……何言ってんのこの人」
……考える事は同じだったらしい。
イスマは率直過ぎると言うか、素直だと言うか。
もう少し波風の立たない言い方を覚えてして欲しい。
「天才魔術師らしいから、召喚士としても色々と学ぶことがあると思うよ。多分」
「……そか、らじゃった。ソトししょー。……こっちの国は楽しい」
イスマも独特の思考をしているので、カデュウにも反応読めなかったが、上手くまとまったようであった。
それにしても、よくわからないところに楽しみを見出すものだ。
「……あれ? 僕、魔術が使えるって言いましたっけ」
「可愛い美少女だから、当然魔術師なのかなーと。適当に?」
めちゃくちゃいい加減な基準だった。
「あの……。僕、男の子なんですが」
「何言ってんのお前?」
心の底から不思議そうな顔をされた。
「……これは、その、女装なのです」
「はっはっは、ナイスジョーク!」
信じてもらえなかった。
もういいや。
さて、面通しが終わった所で、ギルドの依頼を探さなくては。
「ソト師匠、それでは依頼を探しましょうよ」
「興味ない、任せる。金になれば何でも良い」
えらく投げっぱなしな指導者であった。
仕方がないので、カデュウが受付口に向かう事になった。
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