第6話 冒険者ギルドへようこそ パスタはございません
依頼を探そうとカデュウは受付口に向かい、あごヒゲの男性職員に話しかけた。
転移の被害を乗り越えて残った冒険者許可証を差し出す。
これを革の専用カバーを被せるのが、冒険者のちょっとしたお洒落だ。
「冒険者よ、自由なれ」
あごヒゲを揃えた職員が先に声をかけてきた。
冒険者ギルドでの定番のあいさつだ。
かつて1000年程の昔に生まれた合言葉が発祥だという。
慌ててカデュウもあいさつを返す。
「あ。冒険者よ、自由なれ。よろしくお願いします」
「ええ、よろしく。依頼をお探しですね?」
聖職者や学者といった人達が旅装束で着そうな、落ち着きのある格好をした職員だった。
「はい、よろしくお願いします」
「それでは冒険者許可証をお見せください」
「はい」
ベルトポーチから冒険者許可証を取り出して、職人に手渡す。
「新人冒険者が代表とは珍しい。指導者の方はあちらのソト・エルケノ殿でしたね」
先程の騒ぎはばっちり聞こえていたらしい。
指導者がいれば、依頼を受けるのは新人であっても構わないのだ。
普通はベテランがやるものだが、新人や下級冒険者に経験を積ませるという意味で、こうした依頼の受注もやらせるケースはある。
あのやり取りを聞かれていたカデュウは少し恥ずかしく思いながらも、話を進めるしかなかった。
「はい、その通りです……」
「それでは、どのようなご依頼をお望みでしょうか」
「うーん、職員さんのおすすめはありますか?」
「ほう、私に選べと。確かに、それも選択でありましょう」
その職員は顔をカデュウに向けたまま腕だけ右に伸ばして、棚も書類の内容も確認する事もなく、依頼が書かれた紙を3枚取り出した。
「このような依頼ではいかがでしょう」
取り出し方に違和感というか、ちゃんと見てるのだろうかという疑惑はあったが、とりあえず依頼を確認してみる事にした。
【退治:畑の近くに出るゴブリンを根絶やしにする】 報酬:金貨6枚。
【探索:古代帝国期の武具の買取】 報酬:武具の相場による。依頼人との交渉により変動。
【護衛:創造性が溢れてくる景色に案内する】 報酬:金貨14枚。
「……この3枚目のこれ、意味が分からないんですが。これ護衛に入るんですか」
「そのような事もあるかもしれません。形式としては護衛ですね。目的地がはっきりしていない、という点がやや特殊ですが」
どこに連れて行けばいいのかわからない護衛ってなんだ。
良く見れば書類の下の方に、過去に失敗した回数が3度と記入されており、要注意の判が押されている。
「これって失敗したとありますが、つまり景色が気に入らなかった、って事ですか?」
「そのような事もあるかもしれません。依頼人が無事ならば特にペナルティはありません、その意味では気軽な依頼と言えましょう」
3つの依頼のどれを選ぶか。
ゴブリン退治はよくあるものだが、報酬相場は安い。
基本的に村人からの依頼が多く、依頼人側に予算が無いのだ。
新人冒険者の戦闘教育用としてよく引き受けられるが、苦労する割に報酬が少ないのでベテランパーティはやりたがらない。
戦闘専門の冒険者が他の依頼と合わせてついでにやるような形が多いだろう。
依頼の日付をみると今日入ってきたばかり、それならば可能な限り早めに対処した方がいいと考える。敵は殺せ、と先生も言っていた。
武具の買取は依頼人がどういうものを欲しがっているか次第だ。
コレクターなどが発注している事が多く、依頼の性質から目的のアイテムを所持している冒険者しか受注できない。
だが、古代帝国期の武具という条件には心当たりがあった。
魔王から預かった剣だ。
値段に折り合いが付けばここで売却するのも良い選択だろう。
最後の護衛は意味がわからない。
依頼人にしか合否の基準がないのだから判断しようがない。
だが失敗してもリスクはない。そこに行くまでの諸経費はかかるだろうけど。
すでに候補地は思いついていた。ダメならダメで構わない。
「これ全部受けてもいいんですか?」
「もちろん。決めるのは貴方です。貴方の選択です」
受けてもいいのなら3つとも受けてしまおう、とカデュウは決断した。
ゴブリン退治以外は特に急ぐような期限のものでもない。日程的に問題なく出来るだろう。
カデュウが所持していた買取品候補の剣を職員に渡し、依頼人からの要求に答えられそうかチェックしてもらう。
「これは素晴らしい。間違いなく喜ばれる事でしょう。売るか売らぬかは貴方の選択次第ですが」
すべての手続きを終えて、カデュウは依頼の書類を預かった。
はじめての冒険者ギルドでの依頼受注は完了した。
「それでは良き冒険を。冒険者ギルド巡回職員ゲーツェがご案内致しました。次に来る時は、私はこの地にいないでしょう。ご報告は他の者になさると良い」
巡回職員? カデュウははじめて聞く名称であった。
その名の通り巡回しているので次はいない、という事だろうか。
「良き冒険を。どうも、ありがとうございました」
仲間の元に戻り、受けた依頼の書類を皆に見せる。
この書類は冒険者用で、ギルド用の同じ書類はまた別に存在する。
冒険者用の方は、どんな依頼なのか仲間に見せたり、うっかり忘れたりしないように、依頼を引き受けた冒険者が書類を持ち歩くことを許されているのだ。
皆でじっくり書類を眺め、まずはアイスが口を開いた。
「まずはゴブリン退治ですよね。他のものはその後でいいでしょう」
「そうだな。さっさと行こうぜカデュウ。依頼人が死んでたら報酬出ないんだろ?」
「退治したこと自体の報酬はギルドからでますよ、シュバイニーさん。でも大分報酬は落ちるでしょうね」
「……れっつごぶりん」
「ぃよーし、話は決まったな。ひよっこ共。さっさと行くぞ、ついてこい」
ソトがベテラン冒険者らしい振る舞いで、まとめてくれた。
全員同じ意見だったので特に異論は出ていない。
こうしてこのパーティではじめての冒険に出発した。
「ところで。どこについて行くんです?」
アイスの素朴な疑問が、意気揚々と冒険者ギルドの外に出たソトの足を止めた。
「それはだな……。おい、カデュウ。説明してやりたまえ」
「ちゃんと読んでなかったんですね、ソト師匠……」
おっちょこちょいな師匠だ。最初の指導者だったハクアもこんな感じだったけど。
依頼書を見せながら、せっかくなのでこの辺りの地理についても説明する事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます