第4話 金髪ロリがあらわれた

 魔王城との転移陣が存在するこの場所は、アインガングの村、という所らしい。

 カデュウ達は出発の前に村長から色々と必要な情報を集めていた。


「なるほど、それでは、ここはどの辺りの国や位置なのでしょう?」

「ここはゼップガルド王の領地ですな。一番外れの東側、エルフの森の付近です」

「ゼップガルド、……となるとマーニャ地方ですか」


 元々、転移事故の前に居た場所が、南ミルディアス地方の都市ファナキア。

 ゼップガルドはそこから北上していき、他の小国を1つ挟んだ位置だ。

 思ったより離れた位置ではなかった。


 最初の指導者となってくれたハクア達と意外に早く再会できるのかもしれない。

 転移事故に合う前、共に冒険をしていた白髪の少女。


 だがあちらも移動するだろう、うまく会えるかというとかなり偶然を頼る事になる。

 どの道、旅費が必要にはなるので無理に探しに行く事は出来ない。


 そういえば、その間にあるルクセンシュタッツ王国には共に先生の下で修業をしていた同年代の少女、クロスが居る。

 会えないかもしれないが、近くに行ったら様子を伺ってみよう。




 まずは最も近くにあるそれなりの都市、ゼップガルドの街へと向かう為に、色々と村から食料その他を分けてもらえたのだが、少々問題があった。


 運搬役がいないのだ。

 カデュウやアイスは力があるタイプではないし、イスマは論外だ。

 今回は大した量ではないが、後々を考えるとあまりに運搬力が低い。

 と、悩んでいたら、イスマが任せろと無表情の割に自慢げに主張してきた。


「……かもん」 


 イスマがその手に持った杯が輝き――。

 突如、1人の男性が現れた。


「やっと出れたか。よお、俺は――」

「……このうるさいのがシュバイニー」

「誰がうるさいのだ、お前が静かすぎるんだ」


 突然現れたその男性は、カデュウら3人に比べて、大分長身の青年だ。

 眼鏡をかけた知的な風貌ながらも、どこか野性的な雰囲気も併せ持っている。


 そんな姿形よりも、どこから出てきたのか、という疑問の方が強いのではあるが。

 口をあんぐりさせた、アイスの驚きの表情がカデュウと同じ疑問を物語っていた。


「簡単に言うと、俺はこいつの守護者だ。頼れる格好良いお兄さんと思っときな」

「……シュバイニーはこれに住んでいる、役目は荷物持ち」

「俺、荷物持ちなの!?」

「……なんだかちからがでない、戦いはムリ」

「なるほど――。確かに力が出ねえな。しゃあねえ、お前らよろしくな」


 いまいちどころかさっぱり要領を得ないが、細かい事は気にしない事にした。

 しかしこのような特技を持っていたとは。


「そうだ。みんなの得意な分野を聞いておこうかな。僕は剣と魔術が少し出来る程度なんだけど……」

「魔術が使えるなんて凄いですね。私は剣以外出来ないですよ」

「俺は荷物持ち」

「……荷物持ちの維持?」


 何とも言い難いパーティだった。

 実質、前衛2人のみである。

 偶然出会った者たちで固まっただけなので仕方ない。


 とりあえず後者2人は得意な分野とかそういう話ですらなかった。

 イスマは本来は召喚士なのだろうけれど。


「魔術と言っても攻撃できる凄い奴じゃなくて、明かりつけたりちょっとごまかすぐらいの何かが出来るって程度なんだけどね。それに僕は剣の才能がないんだ」

「昨日、結構スッパスパしてましたけどね、私が見た分だけでも」

「後ろから護身術で処理していっただけだよ、護身だよ」

「暗殺って言いますよね、あれ」

「護身だよ」


 ひとまず戦力の確認のついでに、共通認識を持ってもらう事は出来た。

 無茶をしない為には、どこまでが無茶なのか知っておくべきなのだ。

 自分が何が出来るのか、仲間がどこまで出来るのか、そこまでは実際のところを見ない事には始まらないのだが。




 そうして3日程の旅の後に、無事目的地へ到着した。

 ゼップガルド王国の王都ゼップガルド。

 石を積み上げただけ、というぐらいに無骨な城壁のこの街は、王都とはいえそこまで大きな都市でもない。

 北部へ行く為の通り道の1つではあるが要所ではなく、どちらかというと、ここの南の都市ルクセンシュタッツの方が一般的には重視されているだろう。


「意外と早く着いたね。それじゃ、宿を探す為に、冒険者ギルドに向かおうか」


 踏み固めた土からなる大通りを進む。

 活気がない光景だが閑静という程でもなく、そこそこの街という印象であった。


 ただ、なんというのか。雰囲気があまり明るくないのだ。

 この王国は少し前に独立して出来たものだと聞くが、新しい王の統治が上手くいっていないのだろうか。


 そのまま冒険者ギルドへと、カデュウが先頭になってドアをくぐった。

 ドアの先のギルドの酒場部分へ足を踏み入れる。

 口笛で歓迎してくれたり、ざわついたり、ひそひそと注目されているのは女装のせいではないと信じたい。

 アイスやイスマが可愛いからだ、きっと。

 カデュウ達は酒を飲みにきたわけではないので、そのまま受付口へと向かう。


「あの、冒険者登録を行いたいのですが。あ、僕以外の2人です」

「はい、承りました。ではお2人方、こちらの部屋にいらしてください」

「カデュウ、この人についてけばいいです?」

「うん、そっちの酒場のテーブルで待ってるから」

「……らじゃった」


 アイスやイスマをギルド職員に預ける。


 ここまで来る旅の最中に話し合い、全員で冒険者登録をする事になったのだ。

 旅をしながら暇そうな人を見つけて勧誘していく方針である。


 また、他の2人とは違い、カデュウはすでに新人冒険者である。

 交易商人の家に生まれたが、先生やクロスという同い年の少女と出会い、冒険者を目指していた。

 その夢と並行して開拓を進めようというわけだ。


「クロス、元気にしてるかな。……あの時の約束、果たさないとね」


 きっかけこそ魔王に言われた事ではあるが、カデュウも面白そうだとは考えていた。

 元々冒険者に望んでなったものの、具体的な目標は持ち合わせていなかった。

 冒険者であったという先生への憧れ、クロスとの約束が主な要因だが、カデュウとしては交易商人との兼業ぐらいにしか考えていなかったのだ。


 しかし、自由に出来る土地が与えられた事でやりたい事がと定まった。

 開拓をしよう。素敵で楽しい街を作ろう。

 街を作り発展させる為に、冒険をし、交易を行う。人も集めなくてはならない。

 一歩ずつ、ゆっくりと進めていくしかないが、楽しいとカデュウは感じていた。


「街を自由に作れるって、楽しいな。考えてるだけで夢が広がるよ」



 冒険者ギルドへの登録自体は、怪しい者、犯罪者として記録されている者、ギルドの前科のある者、性格に著しく問題が見られる者、のような類の人物以外は大体通るぐらいには簡単である。


 登録が簡単という背景には、貧困層の受け皿という側面があるし、それだけ死者が多いという意味でもある。

 乱暴な話だが実力の無い者が死んでしまってもギルドとしては構わないのだ。

 無論、ギルド側も生存出来るようにサポートはするが、冒険者とは「冒険」をするのが本分なのだから。


 だが依頼が失敗して取り返しがつかない事になるのは、ギルド側としても避けたいので、斡旋の際は職員がその依頼を行うに相応しいかを見極める事となっている。


 中級冒険者メディオのランク以上のベテランの冒険者が指導者として求められるのも、そのシステムの一環なのだろう。


 登録したばかりで経験も信頼もない新人に単独で仕事を回す事は出来ない。

 そこで中級冒険者メディオと呼ばれるベテランが新人とパーティを組み指導をする仕組みだ。


 中級冒険者メディオとは冒険者のランクの一つ。


 新人冒険者ヌーヴォ

 下級冒険者メッツォ

 中級冒険者メディオ


 実績を積めば段階的に昇格していき、ギルド内でも世間でもそれに応じて信用が高まっていく。

 上級冒険者からはランクごとに数の称号を与えられ、通常の実績だけでなく偉業を認められたり多大な貢献を果たした場合などにより昇格する仕組みだ。

 こうした冒険者の功績は、吟遊詩人の叙事詩となって世間に広まり、娯楽や情報になると共に、冒険者の名声を高める要因にもなっている。


「さて、シュバイニーさん。あっちで待ってましょうか……ってアレ?」


 きょろきょろと見渡しても見当たらない。

 これは一緒に付いていってしまったのかもしれない。

 ……ダメならダメで職員が適切な判断をするだろうと結論付け、1人でジュースでも飲みながら待つ事にした。


「何を飲もうかなー。……まずは現地の在住の方におすすめを聞いてからかな」


 地方や街ごとに特産な品があるし、店ごとに売りも違うものだ。

 味の好みは人それぞれあれど、その場所でのおすすめのものは、当たりでもハズレでも味わっておくのが一興だ。

 そう考え、適切な人物に聞いてみようかと思った所……。



 少し離れた位置から、カデュウを思いっきり見つめている冒険者がいた。

 身体的特徴からしてホビックの……女の子。

 キリッとした碧い目と、プラチナブロンドの髪が特徴的だ。

 前髪の右側が切り揃えられているが、左側は伸ばされている変則的な髪形をしている。

 手にはガントレットを装着し、首にはマフラーを巻きその下にはマントを羽織っていた。


 平たく言えば金髪ロリ。

 そんな存在感たっぷりのお方と、ばっちり目があってしまった。


「やあ、奇遇だな。そこの美少女よ」


 ……いえあの、男の子なんです。

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