第3話 女の子同士で温泉を? 温泉パスタってあるのかな
「隊長、この村ろくなものがありませんぜ。爺婆やおっさんばかりで楽しめもしねえ」
太った山賊のような男が、大柄な山賊のような男に愚痴をこぼしている。
どちらも賊らしい格好をしているのだが、何賊なのかはどうでもいい事であった。
敵は3人。
「しけてやがんなぁ、こっちはハズレだったか。それでもなんとか、かき集めてこいや。俺たちゃ悪逆非道のクースピークスだぜ? 若いのがいたら殺さず捕まえろよ、奴隷として売れっからな。うちの頭悪ぃクソバカ共はすぐ殺しちまうからな……」
隊長、と呼ばれていた賊は他の者より強そうだ。
装備からも、そこそこ上等な山賊ぐらいには見える。
狙いを定め忍び寄る。
静かに。気付かせず。
「おい、なんか食べ物もっ、ぶぇ」
それが最後の言葉であった。
隊長と呼ばれる賊の首に剣が突き立てられる。
「……え? 隊――」
即座に近くの賊も始末する。
残りは太った賊だけだ。
「う、うわああああ!」
やけくそで振るわれた斧を避け、その右手を切り落とす。
「……ひっ」
そして首を刺す。それで太った賊も絶命した。
ここが村の端のようだ。あまり大きな村ではないらしい。
もう敵は見当たらない、倒しきったようだ。
「じゃ、皆さんこちらに来てください。他の村の人達の元へ案内します」
「ぐす……助かりました、ありがとうございます……」
「ありがとうございます、冒険者様。ありがとうございます……!」
村人達が揃い無事を確かめ合った後に、一斉に感謝を受けた。
何人か犠牲者は出ていたらしいが、思ったより多くが生きていたらしい。
「こんな事をお願いするのは恐縮ですが……」
カデュウのその言葉に、村人はすぐに返事をする。
「何でも仰ってください。あなた方は命の恩人です」
最前列の老人が代表者となっていた。
最初に助けた人だろうか、恐らく村長なのだろう。
今こうして集まっているこの場も、その老人の家だった。
年季が入った木造の家だが、村人が集まれる程度には大きい。
「それでは遠慮なく。……申し訳ありませんが、食事と今晩泊まる場所の提供を、お願いできないでしょうか?」
「ああ、それはもちろんです。大歓迎ですとも。襲われたばかりで皆不安ですし、腕の立つ方々がお泊りになられる事はありがたい事です」
「特に食事はお願いしますよ。お腹ぺっこぺこなので!」
横からアイスがずずいとせり出してきた。
切実なお腹具合ならば仕方ない。
「すぐにご用意いたしましょう。その間に身体を洗うといいですぞ」
「はい、ありがとうございます。食事はパスタでお願いします」
「いえ、この村には、その……パスタはございません」
パスタは無かった、悲しい。
「宿はあいにくこの村にはありません……良ければ儂らの家に泊って行って下され」
そして少し案内された部屋で待つと、村長が知らせにやってきた。
「浴場の支度が出来ました、皆さん入れますぞ」
「皆さ……え? ああ、そっか。そうだよね」
今更ながら呪われた服を着ていた事を思い出した。
混浴とか以前に、この服どうやって脱ぐの……。
「アイスとイスマが先に入っちゃって、僕はその……服が……」
「ああ、脱げないんでしたっけ。そのまま入ったらどうです?」
「……一緒にちゃぷろう」
あれ、もしかして素で女の子だと思われてない?
カデュウの心は密かに傷つけられた。
「この国のお風呂は私もイスマもわからないんだから、教えてくれなきゃ困るですよ」
「……おいでおいで」
強引に室内浴場へと拉致されてしまった。
本当にこの服のままお風呂に入るのだろうか、と考えていたら、するするっと自然にボタンが外されていく。
もしかして気を利かせて、こういうとこだけ脱げる仕組み?
妙に配慮の行き届いた呪いである。
「あれれ、脱げちゃいましたね。これで服まで濡れなくて済みますね」
「あの、僕、おと……」
「大丈夫です、斬りたくならないですから。 ……入ってくれないんです?」
「……斬り? え?」
べそをかいてこぼすその言葉に寒気を感じ、粛々と浴場の中へ入る。
基本的な作法について説明し、自分の身体をそそくさと洗った。
仕方がない、早く出よう。
「ふふーん。良い湯ですね~、ここは温泉なんですか」
のん気にお湯につかるアイスが背後から語り掛けてくる。
カデュウは、イスマの頭をくしゃくしゃと洗っていた。
「……ふにゃ、もにゃ、へにゃ、うー」
なすがままのイスマは、手を動かすたびに妙な声を発する。
「さ、お湯に浸かっておいで」
「……一緒にちゃぷろう」
手を繋ぎ誘うイスマが、大きさ同様の子供のように感じられて。
「しょうがないなあ」
などと家族気分でつい入ってしまったが、すでにアイスが入っているのを忘れていた。 静寂が広がり、水音だけの世界がやってくる。
……気まずい。
「意外と……、入ってしまえば慣れてきた……かな?」
「そ、そう、ですね。……私は逆に落ち着かなく……」
お互いに、景色を見ながら、遠慮がちにおっかなびっくりに。
大体なんで強引に誘った側が、いざとなるとオドオドしだすのか。
そういうのずるいと思う――。
「ちょっと。……突然恥ずかしがられると、僕も恥ずかしくなって……」
「さっきまで意識してなかったというか、女の子だと思っていたというか」
「ちょっとそれガチで女の子扱いですよ? 恥ずかしさよりショックなんですけど?」
艶のある黒髪、みずみずしい肌が目に飛び込んできた。
つい、話の流れで振り向いてしまい、すぐに首を巻き戻す。
「やっぱり、こういうのはダメです。今まで通り女の子だと思って接しないと」
「ねえ、まって、ねえ。おかしいよね、その結論、ちょっと――」
「このように飛び込むべし! どーん!」
……その後、後頭部を打ったらしく、あまり、覚えていない。
……頭痛い。
こうして村長宅で食事と屋根のある寝床にありつけた。
念願の食事は、焼いたパンと野菜の炒め物だ。
味は、まあその、……お腹が空いていたらなんでも美味しい、きっと。
「さて、これからだけど。まずはどこか大きな街に行き、そこで冒険者の依頼を受けて生活費を稼ぐとともに、魔王さんから預かっているこの剣を売ろうかなと」
「私にはこっちの国の事よくわからないですから、カデュウにお任せです」
「……お任せ」
全員賛成、まずは可能な範囲で一歩ずつ進むしかないのだ。
そして何よりも明日の生活の為に稼がねばならないのだ……。
こうしてとても多くの事が起きた1日が終わった。
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