第2話 ところで、魔王さん。ここどこ?
「ところで、魔王さん。ここの場所がわからないんですが。どうやって街に戻れば?」
「城の入り口に転移陣がある、996年前のものだからいくつかは壊れているがな」
「転移陣で人里近くにいけるわけですね。それは助かります、食料的に」
「とはいえ、転移先が今現在どうなっているのかは余もわからん。996年も経てば瓦礫に埋もれていたり水没している可能性もあろう」
もっともな話だ。
ただ残念ながら、転移先が安全かどうかは行ってみなければわからないのだが。
「まずは城の正面左側の転移陣に行け、いまだ稼働しているものは2つあったはずだ。そこからならば無事移動できよう」
ギャンブル転移にならなくて済んだ事をカデュウは喜んだ。
石の中に転移したら大変な事になってしまう。
「それでは貴様を、魔王村の村長に任命する!」
「凄いんだか凄くないんだか、なんとも言い難い役職ですね……」
魔王の部屋を出て、歩きながらカデュウは2人にあいさつをする。
「それじゃ、2人ともよろしくね。よくわからない流れだけど、一緒に頑張ろう」
「よろしくですよ、カデュウ! イスマ!」
「……よろしくね」
早くもアイスによって、イスマイリという名前が略された。
愛称は大事だよね、うん。
「じゃ、言われた通り転移して街に向かおうか。パスタ食べたい」
「了解ー。さくさく行っちゃいましょうか、そしてさくさく食事にしましょう。腹ペコです」
食事の確保は最優先事項であった。
――何かの、咆哮が聞こえた。
夜暗く月明かりしかない状態であったが、それでもその大きなシルエットはわかる。
――ドラゴン。誰もが知っている至高の幻獣のそのままの姿。
こちらに向かってくる様子はない。
しかし、そういうものがこの近くに住んでいるという事は覚えておかなくては。
「さすが、伝説の魔王城。凄い生き物が他にもいるんだろうなぁ……」
こんなところに住みたがる人がいるのだろうか、と不安にもなる。
再び城の正面へと歩き出し、目当ての場所に辿り着いた。
「……えーと、ここら辺かな」
元々城の施設として屋根があったのであろうが、戦いで壊れたのか月日の流れで崩れ去ったのか、柱と石畳だけが残されていた。
完全完璧に古い古い遺跡の姿。
「転移陣はどこなんだろ」
「埋もれているのかもしれませんが、探してみましょう」
そして柱や壁の瓦礫から見て、中央に近づいた時だった。
カデュウの身体が鼓動した。ドクン、と。
カデュウだけではない、アイスも、イスマも。
身体の変化に呼応するように、かつて転移の間として用いられしその場所に、1000年前の転移陣が現れた。
煌々と。輝きを放ち――。
「!?」
その中心地にすでに立っていたカデュウ達は、驚きと共にその場から消え去った。
――転移したのだ。目的通りに。
「ここは……?」
気が付けば別の場所に来ていたようだ。視界に映る光景がまったく異なっていた。
他の人達は……。全員揃っている。
突然の事で驚いたが、別々の場所に転移したりもせず、無事だった事に安心した。
周囲を確認したところ、古い石造りの建物に農作物が積み重なっている。
農家の倉庫辺りだろうか。
「……て下さい、やめて!」
外から悲鳴が聞こえてきた。
転移陣の場所には異常はなかったが、その周囲は異常事態だったようだ。
外では、老人と中年が倒れていて、女性が野盗のような風貌の男達によって、髪を掴まれ囲まれていた。
ざっと4人、離れた場所にさらにいるかもしれない。
――『敵は殺せ』、と。先生の教えがカデュウの頭をよぎる。
カデュウは瞬時に判断した。
「やってくるね。……静かに」
「了解です。手伝いますよ」
気配を消し、気付かれぬよう男達の背後に立った。
手始めに、髪を掴んでいた男の首を落とす。
地に首が落ちる前に逆手のショートソードで、隣にいた野盗らしき男の首を突く。
残り2人。――いや。
すでに宙より飛び掛かったアイスの剣に声も上げないように、首を狩られていた。
詳しい説明も出来なかったが、援軍を呼ばれないように暗殺するという意図が、きちんと伝わっていて嬉しかった。
その腕前も見事なもので、安心して任せる事が出来そうだ。
「すぐにそこの中に。他の2人は僕らが運びます」
先程、髪を掴まれていた女性にカデュウは声をかけた。
一瞬混乱していたが、すぐに意図を察したここの住人と思われる女性は、カデュウらが出てきた倉庫のような建物に逃げ込んだ。
「……あっち」
イスマが方向を指し示した。現在位置から右手だ。
そこにいる、という事であろうか。敵か、助けるべき人が。
アイスと頷き合い、そこに向かってみる事にした。
今の時点では何もわからないのだ、従ってみてもいいだろう。
「へっ、しけた村だぜ。俺達の為にしっかり稼いどけってんだ。オラわかってんのか」
乱暴な男が足元の男性を蹴飛ばした。
人数は……2人。いや、どこかにもう1人いる……?
カデュウの感知力ではそこまでしかわからなかった。
「アイス、どこかにもう1人いるみたいだけどわかる?」
「ええ。サクっと殺ってきましょうか?」
「うん、静かにね」
再びアイスと同時に闇討ちで静かに処理する。
アイスがこうした事に慣れている剣士で助かったとカデュウは考える。
1人では先程の時点で声を上げられ面倒な事になっていただろう。
しかし、まさかこのような所で先生に教わった護身術が役に立つとは。
先生の教えに感謝する。
「は、はひ、はひ……」
死体を見たからか、蹴られていた髭の男が怯え震えて小さく悲鳴を上げていた。
「お静かに、敵に気付かれます。僕達はあなた達を助けている者です、ご安心下さい」
「た、助か……」
そこで声を止め、髭の男性は頷いた。
アイスやイスマと共に、先程の女性達を隠した場所に戻り、髭の男性に待機するように伝える。
「ここはアイスに任せていいかな。僕は防衛するのは苦手だし村人を探してくるよ」
「わかりました。私も得意ではないですけどねー」
村人やイスマ達の守りはアイスに任せ、カデュウは村の他の敵を探しに向かう。
静かに。静かに。気配を消す。闇に溶け込む。
「こら、ババア。このガキ殺されてえのか? 金を出せってんだよ!」
「やめ……! 孫はたしゅけてくだしゃい! 金なら渡しましゅから…!」
発見。盗賊らしき男が女の子を左腕で抱えてナイフを突きつけている。
気付かれていない。静かに、首を狩る。
血が噴き出して、女の子に少しかかった。
「静かに。助けに来ました。声を出すとまた危なくなります」
「……! ……はい」
すぐに理解してくれた。賢い女の子だ。
「他の敵を探してきます、この家で隠れているか、道をまっすぐ歩いた先の石造りの倉庫まで逃げて下さい。そこに仲間や村人が籠っています」
どこなのか、と聞かれなかったので、村人にはそれで通じるのだろう。
そう判断してその場から消えた。
次の敵を探す。
夜の村という事もあって視界は悪いが、賊達も明かりをつけてくれている。
その明かりの元にいけば、敵か、村人か、どちらかがいる可能性は高い。
そして今から向かう明かりの元がまだ確認していない最後の場所であった。
「隊長、この村ろくなものがありませんぜ。爺婆やおっさんばかりで楽しめもしねえ」
太った山賊のような男が、大柄な山賊のような男に愚痴をこぼしている。
どちらも賊らしい格好をしているのだが、何賊なのかはどうでもいい事であった。
敵は3人。
「しけてやがんなぁ、こっちはハズレだったか。それでもなんとか、かき集めてこいや。俺たちゃ悪逆非道の傭兵団クースピークスだぜ? 若いのがいたら殺さず捕まえろよ、奴隷として売れっからな。うちの頭悪ぃクソバカ共はすぐ殺しちまうからな……」
隊長、と呼ばれていた賊は他の者より強そうだ。
装備からも、そこそこ上等な山賊ぐらいには見える。
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