広忠の意志
1548年、7月12日。
暑さが出てくる頃。
俺は信秀の隣で馬を進めていた。何故か。
結婚式も無事に終わり、俺はある日信長の父である織田信秀宅にお邪魔し、
色々なことを話し合った。その中で話題に上がったのが
端的に言えば、徳川家康の父だ。
家康と言えば信長と友好的なイメージが強いと思うが、現在は家康は子供だし
父親の代で対立までしている敵同士だ。
しかも、厄介なところ……今川義元というとても強い武将と裏で手を組んでいて、
こちらに牙を向くと非常に非常に厄介な相手。
ということで俺が
「向こうが牙を剥く虎なら手懐ければ良いまで」
そう言って、松平広忠と和睦を結びに行くことになったのだ。
ーーーー
「いよいよですね.......」
「ああ」
この松平広忠との同盟が決まるかが、今川義元また、諸国大名と有利に立ち回れるかが決まる一世一代の一大事だ。
「竹千代。あの人はきっと大物になりますよ」
俺が話を切り出す。実は俺はタイムスリップしてきた頃に
俺より何歳も年下というのに、しっかりとした口調に、感じるオーラ。
平成で俺が関わった人達が如何に凡人だったのか……そんな事を感じてしまった。
「そうだな。そんな雰囲気がする」
信秀もそれに呼応して答える。
その父親と今からは会談をする。
実はとても緊張していて、胸がドキドキしている。
「そういえば、信長はどうしたんだ?」
信秀が答える。あー信長ね。確かに信長はいない。
「こういうのは俺、無理だから父親と2人でよろしく〜
良い結果を期待してるよキリッ。だそうです」
信長から伝えられた伝言をそのままそっくり伝える。
「あのうつけ息子が.......」
頭を抱えながら信秀はため息をつく。
まあ、唐突に信長が変な話をして同盟が破綻でもしたら困るのはこちらなんだが。
そんな事を話している内に
「着いたぞ」「着きましたね」
領地的...つまり、権力はあちらの方が高い。そのためやはり尻込みしてしまった。
城の名前は
そのまま部屋へと通され、しばらく待っていると一人の男が出てくる。
「これはこれは」
松平広忠だ。今回の話し合いの相手。
「この度は、同盟に関してということで.......よろしいですか?」
広忠が口を開いて今回の話し合いの内容を確認する。
「はい。その通りです」
真面目モードの匠海くんが答える。一つ一つの言葉を慎重に選んで答えないとな。
一歩間違えたら、計画が白紙だ。
「確か、匠海殿は尾張の織田信長様の軍師でしたな。お噂は聞いておりますぞ」
いや、まだ目立ったことは何もしてないんだが。
「ハハハ……ありがとうございます」
苦笑いをして受け流しながら、俺は本題へと入る。
「……で、同盟の件ですが。受けて貰えますか?
勿論最大限の援助なんかはさせて頂きます」
広忠は悩む素振りを見せる。と言っても、もう腹の中は絶対決まってるんだろうな。
「そうですね……其方が持っている情報を全て渡す...なんて条件付きでどうでしょう?」
広忠はニヤリと笑いながら答える。同盟と言っても、こっちが広忠側に協力関係を申し込んでいる立場。どういう条件を言ってきても俺達が拒む事が出来ないのを狙ってだろう。
「……まあ飲むしかありませんよね。勿論飲みます。同盟を結んでくれませんか?」
松平広忠は、今川義元とも繋がっている身。
実質大国を裏切って小国と同盟関係を結ぶのと同じだ。
そこを何とかして意地でも飲んで欲しい。
どうやら、信秀が裏で色々回してくれているらしいが。
「フフフ……」
突然広忠が笑い出す。
「どうしましたか?」
「いや、何でもないですわい。今から儂は普通では考えられないような決断をするのだな……と思うと可笑しくてしょうがないと思っただけですわい」
「……!ということは?」
「実際、今川を裏切ることにはなりますが私は...
その言葉を聞けた瞬間にドっと体の力が抜ける。
「はあ...いやすみません。力が抜けて。本当にありがとうございます」
その言葉を伝え、俺は信長の待つ城へと帰る。
『同盟成功』という知らせを持ち帰って。
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