信長と信長様

次の日、お婆さんの案内によって俺と自称信長は療養所に着いていた。

「お婆さん、本当にありがとう恩に着ます」

「いえいえ、こちらこそお役に立てるなら.......」

またもや深いお辞儀をしながら、お婆さんは自身の家へと帰っていった。

昨夜ずっと考えていた。タイムスリップを本当にしたのではないかと。

その違和感がだんだん確信に変わっていく。


もしそうならこいつが本当の有名な織田信長ってことはここは戦国時代ということだ。

じゃあ、俺戦とかに巻き込まれて死ぬか、野垂れ死に?

将来への不安がひたすらに募る。


いや、『私を助けたから褒美を授ける』とか言って一生遊べたり?

そんなことは無い……と首を横にふる。

社会の成績とか最悪だったしなぁ.......

テストも3点とかだったし。今思えば3点で悪い意味で凄いな。

野垂れ死にするにも、褒美を貰うにも、こいつを治さないと始まらないか。


「失礼します」

療養所の扉を開ける。

「はーいどこを怪我をしたのかな」

気さくなお爺さんが中から出てくる……と共に顔が青ざめる。

「の、の……信長様ですか!?お怪我をして...こちらへと来てください」

療養所で一番大きいと見られる部屋に連れてこられる。


「あ、お座りください」

お爺さんの案内のもと、席に着く。

お礼を述べながら、治療のお願いをした後お爺さんは部屋の奥へと去っていく。

途中、お爺さんは俺と自称信長の顔がとても似ていることという一番謎だったことに触れてくれたが、何となくでいなして治療室へとおじいさんを促す。


これで一段落と言いたいところだが、謎が残っている。

ここからは考察のお時間だ。だいたいここまでの整理だから読み飛ばしてもいいんだぞ。


まず、俺は気づいたら林にいた。

最後に覚えているのは飛行機の中で寝落ちした記憶。

何故タイムスリップしたのか、自称信長が現れたのか。

タイムスリップの方が現実味は無いが、仮にタイムスリップしたとしよう。

なら俺はこれからどうやって生きて行けばよいのだ?


信長の家臣となり、命を懸けて戦う?

金を何とかたくさん得て、遊び暮らす?

農民として何とか細々と暮らす?野垂れ死に?

人身売買されて、ケツの穴を掘られる……それは一番嫌だ。

そこまで考えると、考えすぎか知恵熱か頭が痛くなってくる。

取り敢えず寝ることにした。

ーーーー

翌日、俺は療養所で貧乏ゆすりをしながら、自称信長の

治療の結果をひたすら待っていた。

「待つ」という作業は基本的にとても苦手である。

1時間、2時間、3時間と時間が経っていく。体内時計ではあるが。


と、合計4時間頃だろうか……。奥の部屋からお爺さんが出てくる。

お爺さんの顔はとても暗くなっていたような気がした。

少し嫌な予感がする。

「まさか……」

その瞬間に高速土下座が炸裂する。

「申し訳ございませんでしたあ!」

背筋が冷たくなっていくのが分かる。刃物で自害までしかけていたのでそれは止めた。


「取り敢えず何があったか話してください。謝ってる場合じゃありません」

お爺さんをなだめてから、自称信長の場所まで連れて行って貰うことにする。

「これは……!」

さすがに俺が医者の息子……なんてベタ展開では無いが

素人でも分かる。これは酷い状態だ。

全身に発疹が現れ、吐血の跡。

病名までは分からなくてもあともう一歩間違えたら死に至るのは分かる。

更に、槍の跡のような傷から細菌が入って病気が重なったりしたらそれこそ死だ。

ひたすらに呆気に取られていると、入口の方から男数人の声がする。


「失礼するぞ!」

はいはい……とお爺さんが様子を見に行くと数十秒後に

真っ青な顔で戻ってきた。

「い、入口に織田信長様の家臣の方々がおられて……」

「は!?」

驚いた。タイミングがおかし過ぎないか?

「……俺が行くしかないか」

お爺さんのうろたえるような目を見ながら溜息をつく。

まだ現実ではないような気がしている。

「お爺さん。あなたの名前は?What your name!」

英語にあたふたしながら

「源...と申します。しがない医者でございます」

「源さんね。たまに様子を見に来るから、この自称信長に何か変化が起こったらどんな形でもいいから教えてくれないか?」

「も、もちろんでございます!」

源さんの言葉を聞き安心した俺はそのまま入口へと直行する。


俺と自称信長はよく似ている。信長が治るまでは……俺が影武者になればいいだろう。

「おお!殿心配しましたぞ!」

「三日間も何をしておられたのですか!」

ゴツイ男たちの問答を受けながら、乗ったことも無い馬をふらつきながら乗って

俺は城へと向かっていくのであった。

ーーーー

ー現在ー

「まあこんな感じの経緯で俺は信長の影武者になったわけよ」

少し長い話にはなったが、匠海は最後の最後まで興味深そうに聞いてくれていた。

「すごい話だな。まるで創作話のようだ」

匠海はそう呟きながら二人は別れ、寝床に着いたのだった。

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