信長と藤樹
その後は結婚式がお堅く続く。
そして夜には盛大な宴会が開催された。家臣から何からてんやわんやの大騒ぎである。
ふと横を見ると柴田勝家は誰かと酒を飲んでいるようだった。
俺はまだ未成年だし……と思い夜風にあたりながら茶でも飲む。
「匠海、飲む?」
どうやら、トイレから帰ってきた様子の信長が横から話しかけてくる。
恐らくこの飲む?というのは、茶ではなく酒を……ということだろう。
「無理だろ、法律上。」
「ここは平成じゃねえぞ?飲まなきゃ損じゃねえのか?」
そんな事を笑いながら話す。少し酔っているように見えなくはないが、
こいつはこれが通常運転である。
「まあ飲まねえけどな!酒は20になってから〜ってな」
随分とご機嫌のようだ。今日はお祭りだし当たり前と言えば当たり前だが。
「そういえばさ、信長·····と言っても前の信長はどうなってんの?」
その場の勢いで気になっていたことを聞く。
この間信長はタイムスリップした時期は俺の来た一か月前…と言っていた。
という事は、それまで信長をやっていた言うならば
すると、信長は少し暗い顔をする。
「.......多分病院かな?」
「病院?なんで?」
率直な疑問を口にする。旧信長は病院にいる……?どういう事だろうか。
「それは少し長い話にはなるんだがな…」
ーーーー
ー1547年9月、匠海がこの時代に来る約一ヶ月前ー
「...ん。ここは何処だろうか...」
信長...いや、まだ
藤樹はいつの間にかに林の真ん中で眠っていた。
まだ状況が把握しきれていない。何が起こったのだろう。
「林...?でも何でここで……あ!?!?」
藤樹の心臓がドクンと高鳴る。
目の前に自分とほぼ同じくらいの背格好の死体が転がっていたのだ。
いや、息はまだ微かではあるがあった。
一瞬ではあるが、自分は死んだのではないかという錯覚に陥る。しかし、ちゃんと手足もあるし宙に浮いてもいない。
藤木は自分と本当に瓜二つの他人が倒れているという解釈をしていた。
と、そんな結論を下すと新しい問題が現れる。
「何で俺は瓜二つの他人と一緒に林の中にいるんだ?」
当然の疑問である。彼の最後の記憶は飛行機の中で眠りに陥ったというものであった。
ってそんなこと悠長なこと言ってられない。
ここがどこか...よりは早くこの瓜二つの男を助けなければいけない。
自身のスマホの電源を入れる。
「救急車.......電波が届いてねえか。まあこんな林に電波が届くってのもおかしな話か」
とりあえず、応急処置をしないといけない。
怪我をしたのは足であった。そこそこグロかったがそこは目を瞑る。
まるで、槍で突かれたような傷だった。
「どこでどんな怪我でもしたらこんな傷跡になるんだよ……!」
旅行案内書の紙切れを結んで、圧迫止血を行う。
これでも武道の県大会で準優勝した身だ。
一応怪我をした際の応急処置法なんかは学んでいる。
「.......!こ…こは?」
俺と瓜二つの男が目を覚ます。
「目を覚ましたか!どうか?痛いか?」
「おお.......そちが、拙者を助けてくださったのか。多少痛むが……ん!」
多少口調が気になったがそんな事を気にしている暇はない。
「強がるなって。とりあえずこの林を出るぞ」
「そうだな。介抱を頼む」
その声を聞き、その男をおんぶする。
少し重かったが数十分で平野に出た。
「病院は.......といっても原っぱじゃねえかよ!」
もちろん携帯の電波が入らない。林が出たあとが原だったからか藤樹は
少し絶望的な気分になっていた。
もしかしたら、このまま数日迷って野垂れ死になんてことは無いよな?
自分で思ったら余計不安になってきた。
「.......なんだ?その奇妙な板は」
背中にいる男が唐突にそんな事を言い出す。恐らくスマホの事を指しているのだろう。
「はあ?これはスマホだよ!記憶喪失?傷で頭も打っちまったか?」
「なあ!お前の名前は?」
記憶喪失だとホントに厄介だ。こいつに道を聞くのも手だと思っていたのに。
「拙者は織田信長と.......申す。」
あー、ダメだ。記憶が混同してやがる。
織田信長とか歴史の人物じゃねえか。
「今日は何年の何月何日?」
「天文16年……日にちは分からぬ」
歴史好き?歴史好きが怪我して記憶混同して信長になった?
あーあ、だめだこ.......待てよ?もし本当にそうだとすると?
俺の方が頭おかしいヤツ?
.......いや?ないな。
とりあえずここはどこなんだろ
原のため道路もない。民家を探すしかない。
それこそポツンと一軒家。
と民家は予想外にすぐ近くにあった。
本当にタイムスリップしたかのような木造の寂れた家だった。
「失礼します、ちょっと看病をさせていただいてもよろしいですかね」
家に入っていく。。。囲炉裏?かまど?置いてある。
これマジで?タイムスリップした?昔ながらの家に思わず勘違いしてしまうほどだった。
「ああ、はい。1泊していきんさい」
おばあさんが出てきた。
「って?あ!」
とおばあさんは深深と頭を下げる。
は?もしかしてこいつに?
「これは.......尾張の信秀様のご子息の信長様!
こんな寂れたところですがどうぞどうぞ。」
お婆さんが土下座するくらいの勢いで頭を下げてくるもんだから止めることしか出来なかった。
少し申し訳ないような気持ちになったが、今の俺の心情は
「本当にタイムスリップしたのかも」という事だけだった。
漫画なんかでしか見たことのない事象。自分の身に起こったと思うのは信じられなかった。
考えても終わらないので、その日はそこで1泊したが。
「おばあさん、ここら辺で病院というか...療養所ってありますかね?」
「あ、それならここを少し行ったところに」
お婆さんが言うにはここから少し行ったところにお爺さんが一人でやってる療養所があるらしい。少し安心した。
明日はそこを目指すことにした。
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