タイムスリップ

「ん……? ここどこだ?」

 目が覚めた。でも、見慣れない部屋だ。

 病室……ではないか。

 和風の部屋だ。ばあちゃんの家の匂いがする。

「あれ? 傷が……無い?」

先程まであった傷と痛みがいつの間にか無くなっていた。

確かに俺は怪しい風貌の男に刺されたのだ。思いっきり。

ABCが必要なくらい。

ちなみに、AEDは心臓止まった時だからな.......。

そんなくだらないことを考えて、大事なことを後回しにしていた。

取り敢えず、起き上がって部屋の外から出てみるか。

そう思い立ち上がろうとした時に、襖が開く。


「あっ! 起きていらっしゃいましたか」

若い...年は25位だろうか。男の人が出てくる。ん?あれ?刀持ってない?この人。

お主はなんで帯刀しとるのだ、という俺の心の声を当然のように無視し、


「どうぞ。着いてきてください。広間で若が待っていらっしゃいます」

 と声を掛けられた。

 若って、信長とかに付けられた敬称(?)じゃん。もしかしたら、結構金持ちの家だったりする?まあこんな使用人雇ってる時点である程度の財力がある人の家である人は間違いないか。

 そんなことを思いながら半ば興奮しながら

 男の人の後をトコトコと着いていく。


 途中には見事な多分日本庭園だろうというものもあった。

 芸術の道は知らんが、綺麗だと思ってしまった。

 余程の職人が作ったのだろう。職人とかってことはやっぱり金持ちとかか?

 さすがに見ず知らずの子供を泊めるほど金持ちも暇じゃないと思うし。

 まあ家にはすぐ帰れるだろう。

 第一、傷はどこいったと思ってしまう。

実は、刺された事は全て夢でこっちが現実なんてバカげた説も考えたが、一瞬でボツ。



 と考えるうちに「どうぞ」と言われたので着いたのだろう。

 コンコンとノックをしようと思ったが、扉がふすまだったので、

 そのまま「失礼します」とふすまを開いた。


「どうも、いらっしゃい」と、声が聞こえる。

 違和感を感じた俺はさっと、声のする方に目をやった。

 目をやって見ると、ここまで大人だと思っていた金持ち若様は、

 子供であることがわかった。しかも、俺と同じくらいの年の。

 恐らく中学生くらいだろうか。


 ここまで寝かせてもらったんだから礼くらいは言って帰ろうと思っていた俺の心が揺らいだ。

 何かが起きるような気がしたのだ。

「こんにちは、ここはどこですかね?」

 恐らく近所。近所のはずなのだが、感じる妙な違和感。

  「ここは1547年ですね、えっと……愛知? 岐阜? の辺りだと思います」


 あ、そうですかと言わんばかりにサラッと口にした言葉。

 その言葉が俺の中の矛盾を繋ぎ合わせる。

 帯刀した男。そして、この男。

 明らかな日本庭園。

 俺はタイムスリップしたのではないか?

 そんな疑問が頭をよぎる。

 いやいや、有り得ないと脳が拒んでいるのか、本当はもう分かっていたのかもしれない。



「もしかして、俺はタイムスリップした系ですか?」

「大正解! 勘が鋭いねぇ」

 もう絶対タイムスリップしたのだと思った。

 テレビのドッキリなんかでは無い。本能が言ってるような気がする。

 俺の中でそんな結論が付けられた。

「じゃああなたは?」

「202×年の時から来た名前を川中藤樹かわなかとうき

 今の名前を織田信長です。あ、全然タメ口でいいからね、よろしく」

「マジで言ってる?」


 もう自然と信じられる。おかしい話ではあるが。

 また信長に連れられ、建物の上に上がると

 広がる、城下町。

「す.......凄い」

 確かに規模は小さいが、立派と言えるものだった。

「1547年ってことは.......信長は...えっと13歳...?」

「おー、正解。もしかして、詳しいひと?」

 ヘラヘラと笑いながらそんなことを言っていた。


その日の夜は驚きと興奮で眠れなかった。

まだテレビのドッキリなんじゃないかと思うくらいだ。

心臓がバクバク鳴っている中、俺は疲れ果てて眠りについた。

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