3話 キンクリ!時間飛ばしすぎぃ!

キングク〇ムゾン!


やぁ。なんやかんやで15歳になったコウ君こと俺だよ。


ちなみに俺の名前は神保コータ。どこにでもいる15歳の男子生徒である。


自分にあるおっさんの記憶が目覚めてから、はや12年。


両親と修行したり、魔物と戦ったり、どっかのお偉いさんを助けたり、そのせいで死にかけたりといろんなことがあったが、ここでは割愛する。いつか話すこともあるだろう。


それはそれとして。これだけ時間も経てば装備やら武器もそれなりに進化すると思いきや、大幅なバージョンアップは見られなかった。


最初は意外に思ったんだが、考えてみればそれもそうかと納得もできる部分もある。そもそも俺たちが使ってる武器は200年の間に最適化されてきたモノ。

これがいきなり規格を変えるなんてことは早々無いのである。


尤も、基本性能やら汎用性は高まっているし、母さんが持っていた生態兵器っぽいものも随分と数やバリエーションが増えているから、それが進歩と言えるかもしれないけど。


とりあえずそれらについてはあとでいいだろう。

なんせ今はそれどころじゃないからな。


といっても、別に今現在魔物と戦闘中だとか、死にかけてるとかではない。なんせ俺は今、首都にある狩人を育成するための学校に来ているのだから。


学校。学園。学舎。

呼び名は多々あれど目的は一つ。

そう、勉強するところである。


なんでもここは、狩人を育成しつつ前世で言う高卒資格を得ることが出来るという国家公認の学校なんだとか。


ちなみに今の俺は魔物が蔓延る修羅の巷で、3歳の頃から両親に付いて回って狩りやら討伐やら採取やら何やらをしていたら、いつのまにかそこそこ有名な狩人になっていた。


なので自分でも「このまま生きていけるかなぁ」なんて考えていたのだが、ひょんなことから学校に通うことになってしまったのだ。


……この歳になっていきなり安全地帯で学業しろって言われても、正直キツイんだが、今はこれも仕方がないことと思って諦めることにしている。


入学試験については、元々国語やら数学の基本的な知識はあったし、歴史やら科学に関する常識は両親から重点的に教わっていたので(とくに科学は知らないとまずい)筆記試験には普通に合格できた。


実技に関しては当たり前に免除。だって普通にプロの狩人だし。


そのせい……と言えば良いかどうかはわからないが、入試の成績優秀者に与えられる奨学金の対象になれなかったみたいだが、金に困ってるわけではないので特に問題ない。


金はいくら有っても困らないけど、わざわざ目立ったり、他の人の分を取るのはなぁって配慮する程度の余裕はあるし。


そもそも俺は自分で稼げる手段も有るからな。あぁ言うのは本当に必要なヤツに使えば良いと思うんだ。


それに肝心の成績もなぁ。社会人に必要と思われる基礎的なことは知ってても、流石に関数がどうこう言われたらなぁ。ハイ、ほとんど覚えてませんでした。


いや、魔物だの何だのとの戦闘では数学なんか使わないし、俺には完全記憶能力なんか無いからな。普通は忘れるっつーの。父さんも母さんも科学には強いからそこそこの応用は利いたけど、所詮はそこそこでしかないんだよなぁ。


あとは俺のやる気もあるだろう。


わかりやすくいうなら、君たちは転生してまで関数の勉強したいか? って話だ。


そもそもの話、すでにプロの狩人の資格を始めとした様々な資格を持つ俺がここに来たのは、パーティーに裏切られたとか、役立たずとして解雇されたとか、凄いチート能力に目覚めたとか、邪魔だからと排除されたとかではない。(……夫婦の夜の生活の邪魔だったかもしれないけど)


それはある時、ぼそりと呟かれた、世話になっていたギルドのお偉いさん(支部長)の何気ない一言が原因だった。


支部長曰く『ボウズの最終学歴が白紙ってのは不味いだろう』と言うものだ。


ごもっとも。としか言えなかった。


一生狩人で過ごすならそれも有りかもしれないけれど、負傷やら歳やらで引退した場合、学歴無しがヤバイというのは想像に難くない。


さらにギルドも、子供を学校にやらずに戦場に送り込んだ! などと非難される可能性もある。 まぁ義務教育ではないにせよ、小学校も出てない子供を所属させるのは外聞悪いよな。


なんたって、今じゃギルドが独占禁止法に触れてるだのなんだのと言って騒ぐ馬鹿な政治家も居るし。


いや、狩人ギルドは対魔物用の軍隊みたいなものだからね。


長年の積み重ねの結果、色んな会社や傭兵集団が関与していて、利権や権力争いもあるだろうけど、それでも有事の際の指揮系統が統一されてないのは不味いだろう。


だからこそ軍隊として編成し直すべきだ! って考えもあるらしいけど、残念ながら現実的ではない。


軍隊では対処できないところに対処する為には民間の身軽さが重要だし、そもそも政治家が唱えるギルドの分権は大きくなりすぎた組織に対する警鐘でもあるのだが、実際は軍やら企業の利権を得るためと言うことが主目的なのだ。


大半の人がそのことを理解しているので、今のところその議員の賛同者は多くはない。


いや、賛同者が居ることを驚くべきなんだろう。……今は実際の戦場を知らない連中の戯言として切って捨てられてるが、魔物との戦いがルーチン化して軍事的に安定すれば、国が完全に管理しようとしてくる可能性は高いってことだと思う。


何せ今の狩人ギルドは世界的な組織であり、日本と言う国に従っているわけではない。日本と言う国家としては自分達が制御出来ない武力なんか怖くて仕方がないだろう。なんたって俺の知ってる時代の日本は自衛する為の武器の所持すら認めないくらい病的な管理体制だったから。


せめて防刃ベストとかが一般にあれば斬り付け事件とかの被害も減るだろうに。


いや、犯人が装備して生きながらえる時間が増えるから駄目か。この辺はとても繊細な問題だったな。


結局は国が下手な介入や法整備をしてギルドの動きが制限されれば魔物との戦いがどうなるかって話なんだがな。現状で国家暴力だけでは国体を維持することは不可能なのだ。だから民間に頼らねばならない。それなのにその力を落とすなんてのは自殺行為に他ならないってのは誰だってわかっている。


それなのに態々こんな主張する連中が現れるとは。たまげたなぁ。


きっと技術が発展し、国家としての軍事力が回復して文民統制を言えるだけの余裕ができた事に対する弊害でもあるのだろう。


あと、提案してる政治家どもにしたら“自分が死ぬわけじゃない”というのも大きいだろう。首都は軍によってしっかり防備が出来ているから、猶更危機感が足りないのだ。。


こんなところに居たら民間の軍事力なんか不要だって勘違いするのもわかる。


それにギルドも品行方正って訳でも無いし、色々と問題もあるのは事実だからな。


尤も、現実を見てない政治家よりはマシだがね。


……そんな政治と人間の傲慢さはともかくとして。そろそろ俺も現実を見ることにしようか。


「お願いします! 私を弟子にして下さい!!」


「なんでやねん」


ノータイムでそんな似非関西弁が出たのはシカタナイことだと思う。

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