4話 弟子入り希望?
入学式当日、式が終わった後の人気のない校舎裏で一組の男女が向き合っていた。
「私を弟子にして下さい!」
…訂正しよう。向き合ってはいない。何故なら女性は土下座していたからだ。地面の上に膝を折り、深々と。むしろ手を伸ばして掌を上に向けて居るから、場所によっては五体投地とも言う姿勢である。
それに対するのは黒髪黒目で、これといった特徴のない少年だ。
普通なら目の前でこんなことをされたら「や、止めて下さい!」とか言うのだろうが、残念ながら少年は普通ではなかった。
「なんでやねん」
彼女の容姿やら態度には一切触れず、彼女の言った「弟子にしてくれ」という謎のフレーズに対して、似非関西弁で返事をしていた。
もちろん見た目ほど冷静なわけではない。似非関西弁な点でわかるだろうが少年こと神保コータは絶賛混乱中であった。
ーーー
いや、つーか、ホントになんだ!? いや! 落ち着け!
現状を簡単に認識&説明するんだ! そう、5W1Hだ!
いつ=今
何処で=俺の目の前で
誰が=腰まで届く黒い髪をした美少女と言っても良い少女が
誰に=俺に向かって
何してる=土下座をしている。
肝心の何故? がわからねぇ!
あぁ、待て待てもちつけ。焦れば負けだ。
まずは……なんだ? 現状の確認だ。
俺は年末に首都である東京にある狩人が入る学校に来て入学試験を受けつつ普通に狩人の仕事しながら生活し、今日入学式の日を迎えた。
そんで、張り出されたクラス分けの名簿を見て学生証を受け取り、さぁて今日は帰るかって思ったら、いきなり見知らぬ少女に声を掛けられ、人気のないところに連れて来られたかと思ったら土下座で弟子入り志願された←いまここ。
……どういう事なの?
落ち着いて考えても意味が分からん。
同年代には知り合いは居ないし、ゲームにありがちなギルド所属の若手の天才職人なんてのも知らない。
弟子と言われても、俺は実技免除だったから学生に俺の実力は知られてないはずだし、ギルドは個人情報に関しては意外と(と言えば失礼かもしれないが)しっかりしている組織だ。
仕事の時は偽名を使い、見た目がガキだと色々問題だから顔も隠している。
だから仕事の現場を見ただの、親から聞いたというのも有り得ない。
それなのに何故コイツは俺に接触してきた? しかも友達とかじゃなくて弟子? そういうのって普通はAクラスの新入生総代とか奨学金貰うようなヤツに頼むんじゃねぇの?
もしくは経験豊富ってわかってる有名な先輩とか。つーか学生なら教師が師匠だよな? ………わからねぇ。コイツが何を考えてるのか。この神保コータの目を持ってしてもっ!
まぁ、わからないなら聞けば良いだけなんだがな。隙を見て俺を殺そうとするような奴なら、俺から目を離して土下座なんかしないだろうし。
つーかこんな時って何て言えば良いんだ? 別にコミュ障でも無ければボッチでも無いから(友達は居ないが知り合いが居るから断じてボッチではない!)会話が出来んと言うことはないが、普通に、なんだ。困る。
「……いきなり何を言っている?」
だからちょっと威圧する感じになるのはシカタナイよね!
「で、ですから私を弟子にして欲しいんです! あ、月謝とかですか? すみません。私お金が無いんで…か、体でお支払い…」
そう言いながら上着を脱ごうとする少女。
ほほう……白か。いやいや、つーか黙って見てちゃ駄目だろ。
「まてまて、服を脱ごうとするな」
マジで何考えてんだコイツは? 普通の男子学生ならコレ幸いと食われてヤリ逃げされるぞ? ……いや、それをやると告発された場合、折角入学した学校を辞めさせられたり、退学にならなかったとしても性犯罪者として広められてしまうだろうから、簡単には逃げれられないと判断したのか?
むぅ。もし逃げられても自分が性犯罪の被害者になれば、周囲の目は多少アレになるものの、それでも賠償やら周囲の同情を買うことで最低限プラスの収支になると判断した? 恐るべしJK。
「そ、それじゃあ弟子にしてくれるんですね!」
とりあえず少女が服を脱ぐのを止め、その行動力に感心していたら、ソレを止められた少女は何を思ったか良い笑顔でこんなことを宣いやがった。
「なんでやねん」
再度似非関西弁が出たのは悪くないと思う。
普通に考えて、だ。手を出さなかった=料金を貰ってないんだから弟子入りは拒否だろうよ。
つーかコイツが無理やり料金払ってでも弟子入りする気なのは分かったが、なんで料金も払わずに弟子入りに成功したことになるんだよ。
というか、なぁ。
「そもそも何で俺? 普通なら先輩だとか教師だとか、同年代なら……ほれ、何かそれっぽいのがいだたろ?」
なんつったか……新入生総代の痛い名前のヤツ。
「はい! 先輩とか先生も考えたんですけど、師匠がプロの狩人だって聞いたので!」
さりげなく師匠呼ばわりしてやがる。なんて厚かましい。最近の若いのってみんなこうなのか? いや、こいつが例外なだけだろう。多分。きっと。
それよりも、だ。 今「聞いた」と言ったか? それは誰から?
ちなみにプロの狩人とはハンターの資格を持つ者の中でC級以上のライセンスを持つ者のことだ。
ハンターライセンスは8つの等級が有り、下からG・F・E・D・C・B・A・Sとなっている。
学校に入学した時点でGランクになるが、このGはモン〇ンのG級と違いゴブリンのGと言われている。(最初はゴキ〇リだったが流石に訂正されたらしい)
つまり現在のコイツは資格はあるが何処にでもいる雑魚であり、見習いの狩人というわけだ。とはいっても狩人になるには最低限の素養が必要なので、今の段階で一般人よりは強いんだがな。
それはそれとして、さっきも言ったが俺は仕事中に名前を変えて顔を隠しているので遠目に見たとか噂を聞いたとかはありえない。
ギルドは個人情報を明かさない。それならどうやって俺の情報を手に入れた?
「ふむ」
必要なら尋問するところだが、相手はこれから同じ学園に通うことになる学友だ。
まずは聞いてみよう。
「聞いた? それは誰に?」
さぁどう答える? 適当な嘘をつくか? もしくは俺が知らない特殊な能力か? どちらにせよ真偽を確認するが……つまらない嘘は吐いてくれるなよ?
「はい! 教えを受ける人を探すために職員室に行ったとき、職員室で先生方が噂をしているのを聞きました」
能力でも何でもなかった! つーか教師かよッ!
まぁ連中は俺の事しってるからな。
そりゃ初日なら噂もするだろうよ。
で、偶然それを聞いたコイツは、教師に学ぶより現役のプロである俺に弟子入りした方が良いと判断したってことか?
……気持ちはわからんでもない。
教師は基本的にDだのCランクの冒険者が引退した時になるもんだからな。そら現役のほうがいいと思うよ。
ちなみにB以上は基本的に金持ちなので、引退したら普通に壁の中で生活したり、国の軍部に引っ張られたり、お偉いさんの護衛やそのガキの家庭教師になったりする。
そんなわけだから学生が現役のプロの狩人と接点を持つのは難しい。そこにいきなり現れた現役のプロ。そりゃ何としても接点を持ちたいだろう。その気持ちは理解できる。理解できるのだが……
「とりあえず君が俺に接触を持った理由は分かった。だがそもそも何故弟子入りを希望するんだ? 態々教師以外の同級生に頭を下げ、体を売ってまで何かを教わらなくとも地道に鍛えてプロに成れば良いだろう? あと俺に得が無さすぎる」
確かに昇格条件に後継者の育成ってのはあるぞ?
だがその枠をコイツに使う必要はない。
ハッキリ言って今のコイツからは焦りを感じる。
こういう奴は他人を巻き込んで自爆するから長生きできん。鍛えるだけ無駄だ。
だからこそ弟子入りを断念させたいんだが。
「はい! お金の為です! 私、お金が必要なんです!」
「お金、ねぇ」
ストレートかつ必死に言い募る少女を見ると、嘘では無いのは分かる。それに絶対にあきらめない! という目をしてるのもわかった。しかも理由が金だ。まぁ必要だよな。それにこの様子を見れば用途は遊ぶための小遣いとかじゃなく、よほどの事情が有るようだ。
うーむ。正直な話、コイツが野垂れ死んでも俺的には痛くも痒くもないんだが……。アレだ。学生として入学したが現状これといった目標も何もなく、だらだらと三年間適当に力を隠して過ごすのもどうかってのは思ってはいたんだよな。
教えて学ぶという言葉もあるし、将来の事を考えれば今のうちに弟子を育てるってのも一つの経験にはなるか? ……それに下着を見たしなぁ。あの代金として、話くらいは聞いてやっても良いかも?
はぁ。しかたねぇ。
「……用件を聞こうか」
「え? いや、だから弟子入りをさせてほしいんですって!」
……そうか。今どきのJKはこのネタを知らんのか。
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