第409話  親子の時間

 カイルの実の親が俺達だという事を告げたが、その衝撃は大きかったようだ。


「君はご両親から伝えられていないと言うが、手紙も託されていないのか?」


「実は怖くて見ていなかった手紙があるのです。ちょっと待ってください」


 そう言って机の引き出しの鍵を開け、そこから大事に保管されていた一通の封筒を出してきた。


「父が亡くなる数日前に言われたのです。自分が亡くなった後に必ず見るようにと。貴方達の事も書いてあると」


 俺は頷いた。カイルの話だとまず間違いなく俺達の事が書いてあり、俺達が託した手紙も入っているのだろうと。5年前に母親が、後を追うようにその半年後に父親もなくなっていた。


 カイルはそこからは封筒の封を躊躇いなく開けた。そして中からは3通の手紙が入っていた。一つはご両親からカイルへの手紙。一つは俺達がカイルに宛てた手紙。そしてもう一通は俺達がカイルを託す時にご両親宛にしたためた手紙だ。


 カイルは俺たちがカイルの為にしたためた手紙を見ていた。読み終わると頷いていた。


「すまない。そこに書いてある内容は改めて手紙を見てよく理解しておいては欲しいが、俺達は本当はカイルと一緒に暮らしたかったんだ。だが俺達はいつの日にかこの世界から別の世界に転移する事が決まっていた。いつなのかはこちらでコントロールできないんだ。異世界に行くメンバーの中に君は入っていなかったんだ。つまり俺達が転移するという事は君はこの世界に置き去りにされざるを得ないという事だ。リギアが君を身ごもった時に俺達は悩んだ。俺達が元いた世界にカイルが来れないということを彼女も分かっていたからだ」


 泣いているリギアをそっと抱きしめてから話を再開した。


「一番辛いのはカイルが幼少期に俺達が突然目の前から消える事た。そうすると生活の手段もそうだが、お前の心に、幼いお前に大きな傷がつくであろうという事が予測された。その為、子をなせないが、子を欲しがっており、信頼できる者の所にお前を託したんだ。俺達は親戚としてお前の成長を可能な限り見守る事にしたんだ」


 リギアは泣きながらカイルの手を取り、ごめんねごめんねと何度も何度も、ただひたすら謝っていた。


 俺はカイルにリギアの母乳で育ったという事を伝えたりした。


 カイルもおかしいとは思っていたとは言っていた。目付き等は育ての親に似ていたが、顔の全体の作りがどう見ても俺に似ていたからだ。ただ、今リギアと並ぶと目付きはリギアそのものだった。


 カイルは俺がやこの世界でやってきた事というのをよく知っていた。カイルが生まれた段階で既に実質的に俺かこの国の支配者になっていた。最も俺自身は表舞台には殆ど立たないようにしてきた。


 俺がこの国の礎を作ったという事をよく理解していた。街道には50年経ったが未だに傷一つ入っていないと言う。硬過ぎて傷が入らないらしい。


 そして今日はというよりも、明日元の世界に戻るまでの間はずっとカイルと一緒に過ごす事になった。急ぎメイドや執事に予定の変更やディナーの時に集められるだけの親類を、特にカイルの子供、孫を全て招集するように伝えていた。


 リギア何度も謝り、恨んでいないかを心配していたのだが、カイルは優しくリギアに声を掛けていた。


「母上様お気になさらないでください。むしろ貴女達の愛を感じました。私は両親に大切に育てられ、幸せに今まで生きて来られております。それよりも母上様の苦悩の方が私には辛いです。自らの子として育てられず、いつの日にか別れの日が来る。又は確実にこの死を看取ると分かっており、私の成長を見ていたというのが。かなり辛らかったと思っております。感謝こそすれども、恨むような事はありません」


 そういうとリギアはカイルに抱きつき、泣いていたのであった。


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