第255話 SL
今日はSLの試運転だ。と言ってもミニで、軽乗用車よりも小さいサイズだ。
あまり小さいと逆に作り難いといい、ある程度の大きさだ。
俺は車輪の設計で少しアドバイスをしていた。
今回レールは30 m程を組んでいて、その範囲で僅かばかりの距離を、まずは進めるかどうかのテストだ。
車輪を外したそういう状態であれば、車軸が回る事は確認している。
今初めて車輪を付け状態でレールに乗せる。
一度動いてるから、機関が仕事するのは分かっている。
操縦席だけはどうにもならなかった。
小型にするわけにはいかなかったので、SL だと石炭が載っているあの部分に急遽操縦席として作った。魔力を込める魔道具、ブレーキとアクセルに相当するレバー。
また各種安全弁。逃し弁の操作やらなんやら本物は複雑だそうだがミニモデルはそこまでしていないと。
一応汽笛も作ったというので紐を引くと汽笛が鳴るはずだと言う。
そうして動かして行く訳けだが、今回は魔石を使わずに俺の魔力で行いたいと言う。
その為操作方法を教えてもらいながら俺が運転する事になったのだが、はっきり言うとイベント会場で見る お子様を引っ張るミニSLの状態である。あれよりは大きい物ではあるが、その域を出ない。
そして 魔力を込めると、魔力量に応じて段々蒸気が発生してきた。次に動力を車軸に伝える時が来た。一瞬車輪が空回りしたが 力強く車輪が回りだし、その車体が前に進み始めたので、言われるがままにレバーを引き速度を上げる。段々と速度が上がるがいかんせんレールが短い。 ある程度進むと周りが騒ぎ始めたそうブレーキブレーキと叫んでいるのだ。
俺は慌ててブレーキをかけレールから落ちる直前になんとか停止する事とができた。
皆大喜びである。そして反対側に向けてセットし直し、今度は魔石で動くかどうかを確認する。今度は百合亜達が操縦をする。俺の魔力で動いているのでほぼ大丈夫だろうとは思いつつも、皆不安と期待の目を向けている。そして百合亜がレバーを操作する見事に機関車は 動き始めたのであった。勿論皆大喜びであるが、俺もつられて喜び皆とハグをしまくった。大成功だった。
そして現在は街道に対して横に一本の新たな道を整備し始めた。鉄道のレールを引く道を整備していたのだ。機関車が完成すると一気に鉄道網が広がるだろうと考えている。よくよく考えたら今後大いに発展するだろうとのことで複線で行く事になって、まずはワーグナーから隣町までの 拡幅をすでにユリア達が 進めており、レールを敷く工事が着々と 進んでいたのであった 。そうして機関車の製造に取り掛かる事となり、資金は俺が全て出す事にした。魔道具を使えば 水魔法や蒸気を発生させるのにボイラーで沸かすのは大した量を必要としない。 特に魔石は大量にあるので、鉄道を作っても数十年分使えるだけの魔石を既に俺が持っている。そのた為に設計段階からまず水を貯めておくタンクを廃止しており、魔石をある程度しまっておく収納スペースが必要なだけで、地球の物と設計が異なる。
鍛冶職人を総動員してこの世界では未知の乗り物の製造を始めるわけであるが、ユリアはつきっきりで指導することになるのであろう。鉄道が出来る、それもはとても楽しみである。 俺だけでいうと、飛んだりゲートを使えば確かにそれで移動できるのであるが、列車の旅これもまた一興である。列車が稼働を始めれば、大量輸送で人も荷物も高速に移動する事が可能で、さらに経済が発展していくであろう。
地球との文化の進み具合が異なってしまうが、この世界の特有の魔石や魔法を取り入れた 独自の文化に発展させたい!俺はそう願っていた。
しかし意外だったのが百合亜が SL マニアで、ある程度の図面を頭の中に抱えていたことであった。部品の設計をきちんとできるわけではないので 、彼女のはちゃんとした図面を書き起こす事が出来ず、まず百合亜が大雑把なのを書いて、俺が清書して ちゃんとした図面を起こす。 そういった感じで図面を起こしていた。
既に製図機は作ってあった。今の日本のように、当然コンピューター CAD ではなく手書きで図面を書く。
図面を書くのに使う専用の机である。製図用の机を見た事がない方はパッとこないだろうが、昔は図面は手で書いていたのである。 俺も 学生の頃の授業で まずは手書きの製図をさせられたものである。そのため製図机は嫌と言うほど触ってきた。また会社にも手書きの図面を書くための机は用意されており、俺のいた会社でも年寄りが コンピューターでどうしても描けずに試作機を作る場合は手書きで図面を起こしていたりした。職人が設計しているのだから、なかなかマニアックなものができていた。
俺はあれ?と思った 製図の機械のことは何となく覚えているが、何の図面を起こしていたのかが思い出せなかった。
またまた頭を抱える俺であるが、周りの試作機のSLが無事に動いたことによる喜びの方が大きかった。俺は別の指示を出した。
さっきの試作機はいずれ文化的な資料として保存する事になるだろうが、まずはこれが走る円形のレールを 作成し、時折運転会を行い、それに子供達を乗せてあげる。そういうイベントを行ったらと思いそういう提案をしてみると皆が驚いていた。
それは使い道は実用的な事ではなく、子供を喜ばすというのはあるが、SL というのは怖いものではないよ!どういうものなのかを世の中に知らしめるには、まずは子供に慣れ親しんでもらい、それを見に来るというのは子供の親もついてくる。そして親がその凄さと子供の喜びでSLを受け入れてくれだろう。そうすれば 普及させるのに大いに役立つだろうという思いもなくはなかったのである。
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