第146話 ルシテル

 何が起こったのか思い出せず、混乱したまま俺は目覚めた。

 周りに妻達がいる。


「あれ?俺どうしてたんだ?」


 俺の様子を怪訝そうに伺っていたがアリアが


「死亡者の蘇生を行ったのは覚えておいでですか?」


「ああ、四肢を切り落とされて息絶えていた娘だろう?確か蘇生中に気絶したんだよな。で、成功したのかな?」


「誰を蘇生させたか覚えてませんか?ランスロット様はその女性の顔に、あろう事か放尿したのですよ」


「はあ?俺が女性に小便ぶっ掛けたって?するとしたらバルバロッサの第二王女のルシテル位だぞ。ないない」


「そのルシテルという方とは何があったのですか?」



「俺が召喚された直後に、俺に支配系の魔法が効かないと分かると、俺が第二王女を強姦したとされて、魔物が大量にいる森にこのしょぼいナイフと、もとの所持物、一日分の保存食だけを渡して放逐したんだ。とても辛い思いをした。文字通り死にかけたよ。シェリーを途中で助けたりしたけど、最後はバルバロッサの屋敷が襲撃を受けて、その時の戦いでワーグナーの村の上空から落下していたんだ。しかも記憶を無くし、能力の大半を封印されて放り出され、地面に激突して死ぬ所だったんだ。だからな、あいつだけは許せないんだ。捕まえたら絶対小便ぶっ掛けてやると己の魂に誓ったんだ!」


「記憶が混乱なさっておられますが、既にその誓は果たされましたよ」


「えっ!そんな記憶ないぞ。まさかあの死んでたのがルシテルなんて笑えない冗談言わないよな?」


「あの、ランスロット様、私が冗談を言わないのはご存知ですよね?」


「うん、勿論」


「先程ランスロット様が生き返えらせたのは、ルシテル グリーンウッド、そう、バルバロッサ第二王女です。そしてその首に奴隷の首輪を着けて、小便を掛けられました。間髪入れず剣で殺そうとされました。オリビアが防ぎ、その場に居合わせた唯一の奴隷ではない叔母上様が、ランスロット様の首を締めて気絶させて下さり、今に至ります。思い出してください」


 アリアが俺の頬に手を宛て、優しく撫でてくれた。


 段々思い出してきた。怒りがこみ上げそうになるも王妃様が


「ランスロット様、お怒りはごもっともでございますが、どうか後生です、落ち着いてルシテル嬢のお話しを聞いてください。彼女もまた被害者なのです」



 思い出した。確かに念願かなって小便を掛けてやった。スッキリした。そしてルシテルが生き返った途端見たくない幻影を見た。俺の恋人になっているのだ。うそだうそだと思いたいが、あの幻影が外れている試しは無い。そうなると恋人になる女性に対して小便を掛け、あまつさえ殺そうとしたとなる。


 クレアに相談しないとなと、彼女なら適切な助言をくれるだろうと感じた。彼女達と早速合流しようと強く思ったのだ。


「分かった。執務室で面談しよう。オリヴィア、ドロシー、ルシテルに付き添ってくれ。そして命令を行う。俺がルシテルを害そうとしたならば、力の限り妨害せよ。俺に対する暴力行為から除外するので必要ならば俺に対する攻撃も許可する」


 皆満足したようだ。


 執務室にて待つ事数分、ルシテルが来た。王族の着る室内でのオーソドックスなドレスを着ている。少しサイズが合わないようだが、メイベルのっぽい。


 俺はクロエを連れてきた。簡単に経緯を説明し、お母様にも立ち会って貰う。


 俺の姿を見るなりルシテルがその場にへたりこんで絨毯に染みができた。かつて怒りの矛先にしていた感情が一気に冷めていく。哀れだなとすら思えてきた。


 俺が立ち上がりルシテルに近づくと、オリヴィアが警戒をするが、片手を上げて制した。俺が冷静を取り戻している事を確認してホッとしている


「久し振りですねミス  グリーンウッド。先程は頭に血が上っていて貴女に酷いことをした。申し訳なかった。恐らく私を恐れているだろう。信じろとは言わないが、ここにいる全員に対して誓う。ミスグリーンウッドに対して、新たな敵対行為が発生しない限り、私からは一切の暴力行為を行わない。ただ、嘘を付く事を禁止させてもらうよ」


 俺はそっとルシテルの肩に手をやりクリーンを唱えた

 そして奴隷契約をやり直し、隷属の首輪を外した。


「申し訳ありません。あの様な仕打ちをした相手にも関わらず、一度死んだ我が身を治して頂き、蘇生までして頂きました。心より感謝致します。なにとぞ話を聞いて下さり、出来ましたら庇護下においてください。信じられないかも分かりませんが、ランスロット様を召喚したその日の夜から私は、魂食いに魂の殆どを奪われ、体の支配もされてしまいました。魂食いに操られており、私は意識がありますが体も動かせず、言葉も発せられませんでした」



 ルシテルは話し始めた。まずは召喚についてだった


 召喚は一度試みた者は二度と行えない。

 国王が本来の術に細工をして、禁忌を犯したと。乗っ取られた時に体を乗っ取った相手に教えられた。

 国王は自ら魂食いを取り入れ、半ば融合しているという。

 ルシテルを含む娘を溺愛していて、真の勇者を探し出して刻印を刻ますまで、魂食いに支配させようとした。

 勇者は魂食いに支配させて、国王の傀儡にするつもりだったと。

 真の勇者かどうかは、国王は刻まれた刻印からしか判断できず、乗っ取った高校生達に適当に捕まえた女と刻印を刻ませ、刻印の状況を確認したという。

 俺が放逐された一週間後に第三王女が召喚を行ったと言う。召喚されたのは魔物と人間の死体だけだったと言う。


 又、魂食いに教えられたのが、三年前に召喚を行い失敗したと。第一王女が行ったらしい。

 そして、本日の前後一週間位で王が最後の召喚を行うという。既に終わっているかもだ。


 ダンジョンの発生との因果関係が頭をよぎる。バルバロッサ、ワーグナー、カービング。恐らくこの分だろう。残りは小学生が召喚された分のダンジョンがどこに出るかだ。恐らくジャックナイフかボレロだろう。


 それか2つ共。俺の分でもう一個有ってもおかしくない。合計5つ。

 ボレロは急げばすぐに行ける。セリカを呼べば済む。ジャックナイフはどうにもならないな。


 話を遮ってしまっていてルシテルに続きを喋ってもらう。


 ルシテルは、第一王女と共に兵を率いてジャックナイフを占領したという。

 そしてカービングに使者として降伏勧告に来た。運悪く死んだ大公に取り次ぎの交渉をしている時に魔法で拘束されたと。その時に魂食いは駆除されたという。

 ルシテルは捕まり、敵対国の奴だから殺すも活かすも俺の自由だとか言われ、四肢を切り落とされて牢屋に入れられたという。


 話を整理すると

 三年前の召喚はルールを無視した召喚の為に失敗した。その時に異界の魔王も召喚してしまった。俺の召喚時は魔王がいるので、正規の召喚ができて、ルシテルは信じて疑わなかった。おまけに魔王が発生しているのはルシテルも実際に確認した。だから、この世界を救う為に最悪人身御供になろうとも思ったと。騙されていたとはいえ、正に聖女じゃないか!

 俺の召喚は本当の事故か、三年前の無理な召喚による事故っぽい。

 そして真の勇者が居ないと、召喚が失敗したと見なして翌週にもう一度行い、近日中にもう一度行うと


 益々思う。ルシテルは被害者だ。俺は青ざめた。被害者に小便を掛けてしまったと。


 ルシテルを抱きしめ


「俺は勘違いとはいえ、君にとんでもない事をしてしまった。謝って許される事ではない」



「大丈夫です。どうか頭をお上げくださいませ。元々貴方様を召喚したのは私で間違いございません。それどころか、切り落とされた四肢を治して頂き、胸も再建して頂きました。そして失った筈の命を頂きました。魂喰いに私の魂の殆どを喰われてしまっており、後どれ位生きていられるか分かりませんが、既にこの身も心も全てランスロット様の物でございます。性奴隷として御仕え致します」


 立上がり優雅にスカートをちょこんと持ち上げてお辞儀をした。この世界に来て初めて見たそれである。

 俺は彼女の前で膝を付き、そのまま抱き寄せ、お腹で泣いてしまった。

 彼女も辛かっただろう。己の体が、許されざる行動を取るのを見ているだけだ。可哀想にと


「事情は分かった。この命ある限り君を守ろう。俺のハーレムに入れ。君を愛してしまった。魂が感じてしまった。君が欲しいと。さっきのお詫びをなにかしたい。俺ができることなら何でも言ってくれ」


「勿体無いお言葉です。あ、その、本当に何でも宜しいのでしょうか?」


「あ、あんな事をしたんだ。と、当然だ。奴隷の首輪までしてしまったんだ。男に二言はない」


「うふふ。ランスロット様でも動揺されるのですわね。だいそれた事は希望しません。可能ならば今晩にでも、そ、その、こ、刻印をお願いします。恐らくもう数日とせず、ひょっとすると明日の朝を迎えられないと半ば確信しております。例え魂食いに魂を喰われてしまいましても、真の勇者様による刻印による寿命の凍結の方が優先されます」


 当たり前の要求だった。俺は思わずキスをして、


「わかった。今日君を俺の妻にしよう。先送りには出来そうにないな。落ち着いたらデートとかしてお互いをよく知ろうね」


 ルシテルがモジモジしている。ちょっと可愛いなとドキッとした


 どうしたのかと聞くと


「そ、その、皆の前で恥ずかしいです。ランスロット様の意地悪。あの、私のファーストキスを皆の前でって酷いでしゅ」


 あって最後舌噛んだな。

 もう一度キスをした。それもディープなのを。周りは皆真っ赤だ


「俺の妻にしようと言うのだ、全力で愛してやる。俺の元へ来い」


 俺の差し出した手を恭しく握りしめ、恥ずかしそうに俯いている。

 俺はもうルシテルを許している。それどころか召喚をした事を感謝している。今は惨めで怖い思いをさせてしまった事に対するお詫びの念で一杯だった。

 今朝は小便を掛けた位怒っていたが、今では事実が分かり愛してしまった。

 皆に告げる。


「これよりルシテル グリーンウッドに対して刻印の儀を執り行う。その後ボレロに向かうので、皆準備をして欲しい。最悪ボレロでスタンピードが発生している状況かもだ。その場合、カービングでの状況の二の舞だ。調理人に料理を作らせて準備を頼む。直ぐに行きたいが、そうするとルシテルが命を落とすだろう。もう彼女に残された時間は10時間も無いんだ」


 何故か彼女の寿命が分かった。ルシテルが驚いている。皆に指示を出すとクロエとルシテルを連れて紅の屋敷に向かった。

 王権移譲は明日の朝執り行う事と急遽なった。


 紅の屋敷でルシテルの清めの儀式を行い、お姫様抱っこでゲートにより寝室へ連れて行く。

 彼女の体も素晴らしい。とても綺麗だった。胸も予測通り大きい。サイズや形を聞くと元のと同じと言う。どうやら復元前のサイズを見間違えたようだ。そういう事にしておこう。

 清めの儀式はしたくなかったが、蘇生した体に異常が無いか調べる必要から堪能する事なく、一生懸命行った。俺が真面目に行っていて、ルシテルも恥ずかしがらなかったので、俺も助かった。


 刻印を刻む前にもう一度お詫びし始めたら、キスで遮られてしまい、猛烈に愛おしくなり、儀式を始めていく。色々あり、頭を休めたかったので、儀式を終えた後、ルシテルが俺の頭を抱えて撫でていた。心地よさにいつの間にか寝ていったのだ。

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