第142話 刻印の失敗

 刻印が失敗した。

 ふと俺のステータスを見て、メイベルの名前に印がなく、メイベルのステータスを見てもやはり無い。念話も通じない。


 俺は慌ててメイベルを起こした。


「すまないメイベル。君の刻印が失敗してしまった。なんて事だ!ううう」


 メイベルは俺の頭を撫でて


「ランスロット様?寝ぼけておいでなのですね。まだ三時間ですから、刻印はまだこれからでちゅよ。さあ落ち着いてくだちゃいね」


 いつの間にか俺の幼児退行を知っているようだ。しかし、ドロシーとクロエにしか知られたくないし、この二人しか知らないはずだ。


「そ、そうか。良かった。と、ところでその赤ちゃん言葉は?」


「何を言ってるんでちゅか?ドロシーと私を間違えている時に赤ちゃんプレイしてまちたよ」


 何となく心当たりがある。


「あ、あのな、クロエとドロシーしか知らないし、他には知られたくないから、誰にも言わないで欲しいんだ」


「うふふ。格好いいランスロット様も良いけど、子供のようなランスロット様も可愛いですわね!私との秘密になるのね」


 何とか黙ってくれるようだ。

 まだ眠いので、眠りに着いた。


 そして俺は目覚めると啜り泣いているメイベルに気がつく


「どうしたの?」


「刻印がないの!どうして、どうしてなの?いやー!酷いよーうえー」


 確かに刻印がないのだ。俺もオロオロしている。


 そうしていると皆が部屋に入ってきて俺をなじりだした。ナンシーが


「最低ね。刻印が失敗したって事は、欲望の捌け口にしたって事よね?私達も体にだけ用があったんじゃないの?クズね。何が勇者よ」


 そんな筈は無いのに!どうしてこうなった。俺はメイベルを地獄の底に突き落としてしまったのと同じだ。

 純潔を奪い、しかも刻印を彼女だけあげられなかった。俺は最低だ。生きる価値などない。


 メイベルが一緒に死のうと言ってきた。おれは既に皆に縛られて身動きができない。

 メイベルが、両側に刃のある中央に鍔のある特殊な短剣を俺の胸に押し当て、自らの胸に当てていた。そして


「ごめんなさい」


 そう言うと体重を俺に預けてきた。そして彼女の胸に深々と短剣が刺さり、俺の胸にも刺さった。二人共心臓に短剣が突き刺さった。俺は身動きも転移も出来ない。辺り一面が黒い血の海だ。


 俺の心同然に赤い血じゃなく黒い血が流れていく。そしてメイベルが先に逝き、俺もやがて逝ってしまった。いつかは女に殺されると思ってはいたが、まさか今とは思いもしなかった。

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